こむら返りとは、主にふくらはぎに起こる激しい痛みをともなう筋肉けいれんの総称です。医学的には「有痛性筋けいれん」と呼ばれています。
こむら返りの「こむら」とはふくらはぎのことであり、主にふくらはぎに起こりやすい症状ですが、足の裏やかかと、指、太もも、胸や腕など、ふくらはぎ以外の部位に発生するケースもあります。
こむら返りを発症すると、意思とは関係なく急激に筋肉がけいれんを起こします。多くの場合強い痛みをともないますが、数秒から数分程度でおさまるケースがほとんどです。
また、こむら返りには、昼間に起こるタイプと、寝ているときに起こるタイプがあります。昼間に起きるこむら返りは、運動中や運動直後にみられることが多く、肉体の疲労、発汗や水分の不足による脱水などが要因と考えられています。
日常的に運動をしていない人が急に激しい運動をした場合なども、こむら返りが発生しやすくなると考えられています。
一方、寝ているときもこむら返りが起きやすいです。足を伸ばしているときは、ふくらはぎの筋肉が縮んだ状態になり、さらに動きが少なくなることによって血流が悪くなり、こむら返りが起きやすくなると考えられています。
そのほか、高齢者や女性、とくに妊娠中もこむら返りを起こしやすいといわれています。
ふくらはぎには、センサーのような役割を担う2つの筋肉が備わっています。
・筋紡錘(きんぼうすい)......伸びすぎを防ぐ筋肉
・腱紡錘(けんぼうすい)......縮みすぎを防ぐ筋肉
通常、大脳から発信された電気刺激は、脊椎のなかの神経を通り、これらのセンサーに伝わることで筋肉が伸縮します。しかし、なんらかの原因で電気刺激がセンサーに伝わらないと、筋肉の伸縮をうまく制御できなくなり、筋肉が過度に収縮することがあります。この異常な収縮がけいれんを起こし、こむら返りが生じるのです。
また、腱紡錘の機能が低下する原因のひとつに、血流の悪化があります。加齢にともない全身の毛細血管が減っていき、血流が滞りがちになるため、高齢になるほどこむら返りが生じやすくなると考えられているのです。
しかし、筋肉のけいれんのメカニズムは、現段階ではまだまだ未解明なところが少なくありません。
こむら返りのおもな原因は、腱紡錘の働きが低下することですが、それ以外にも原因があります。ここでは、こむら返りの原因について解説します。
腱紡錘の働きが低下する大きな要因として考えられているのが、ミネラルバランスの乱れです。ミネラルは、筋肉細胞や神経細胞の働きに深く関わっています。
ミネラルのなかでも、筋肉の収縮や神経の伝達をサポートする働きを担うカルシウムとカリウムを調整しているのが、マグネシウムです。そのためマグネシウムが不足すると、筋肉の収縮や神経の伝達がうまくいかなくなり、こむら返りが起きやすくなるわけです。
運動時や睡眠中に汗をかき、脱水状態になると、体内の水分バランスが崩れ、ミネラルも不足しやすくなります。このように脱水状態になると腱紡錘がうまく働かなくなり、こむら返りが起きやすくなります。
ほかにも、体が冷えることでもこむら返りを起こしやすくなるといわれています。第二の心臓ともいわれるふくらはぎは、血液のポンプのような役割をはたしていて、冷えによりふくらはぎの筋肉が固まると、血流が悪化し、こむら返りが起きやすくなるのです。
妊娠中は、黄体ホルモンの働きにより、血管が拡張し、心臓に向かう足の静脈の血流が滞りやすくなります。また、体重が増えることによって足の血管に圧力がかかって血の巡りが悪くなることがあるのです。
さらに、妊娠中は運動不足により血流が悪化しがちになるため、身体が冷えて筋肉が硬直しやすく、こむら返りのリスクが高くなるのです。
妊娠中のこむら返りを予防するためには、足を動かすことを心がける、靴下やレッグウォーマーなどを活用するなど普段から足を冷やさないようにすることが重要です。
こむら返りが起こる原因に「下肢静脈瘤」も考えられます。
静脈とは、心臓から全身に送り出した血液が戻ってくるための通り道です。末端から心臓に血液が一方通行で流れる構造になっており、逆流を防ぐための弁がついています。
しかし、なんらかの原因でその逆流防止弁が機能しなくなると、心臓側から足側に血液が逆流し、静脈がこぶ状に膨らむ下肢静脈瘤を発症する場合があるのです。
こむら返りは、夏と冬に起こりやすい症状です。
夏は、高温多湿の環境で汗をかきやすく、体内の水分や電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム)が失われやすくなります。
すると、神経の情報伝達がうまくいかず、筋肉の収縮が起きやすく、こむら返りが起こりやすくなります。また、冷房による冷えも血流を悪化させ、こむら返りのリスクを高めます。
冬は喉の渇きを感じにくく、水分摂取量が減少しがちです。
脱水状態になると、体内の電解質バランスが崩れ、カリウムやマグネシウムなどのミネラル不足が起こります。ミネラル不足がきっかけとなり、こむら返りが発生しやすくなります。
寒さからくる筋肉の緊張も、こむら返りを引き起こす要因となります。
こむら返りの症状の特徴は、意志とは無関係に筋肉が突然収縮し、ふくらはぎに激痛が生じるこことです。痛みは通常数分以内におさまります。原因としては急な動きや、体の冷え、栄養不足、水分不足、熱中症、急激な寒暖差などが挙げられます。また、特定の病気に関連して発症することもあります。
こむら返りは、昼間に起こるパターンと、寝ているときに起こるパターンがあります。昼間に起きるこむら返りは、運動に関連して起こるケースが多く、筋肉の疲労や脱水などが要因と考えられています。
夜間に起こるこむら返りは、筋肉の硬直や血流の滞りに起因する場合が多いといわれています。
こむら返りもたまに起きる程度であれば過度な心配は必要ありません。
しかし、頻繁にこむら返りが起こる場合、病気が隠れている可能性もあります。
たとえば糖尿病で末梢神経障害が起きると、筋肉を正常に動かすための電気刺激がうまく伝わらなくなり、筋肉が異常に収縮することがあります。この結果、こむら返りが発生することがあるのです。
また閉塞性動脈硬化症でもこむら返りが起きるケースがあります。
閉塞性動脈硬化症とは動脈が狭窄・閉塞することで、足への血流が悪化する疾患です。
血流が不足すると、十分な酸素や栄養が筋肉に届かず、筋肉疲労が蓄積し、こむら返りを起こしやすくなるのです。
脊柱管狭窄症でも、こむら返りが起こることがあります。これは、背骨のなかにある「脊柱管」と呼ばれるトンネル状の管が狭くなる症状です。
神経が圧迫されることで筋肉がけいれんし、こむら返りが起きることがあります。
こむら返りが起きたときは、次のステップで応急処置をしましょう。
・ STEP 1:ゆっくり伸ばす
つった足の筋肉をゆっくりと伸ばし、痛みを和らげます。つま先を手前に引き寄せるようにするのがポイントです。
・ STEP 2:マッサージする
つった部位を優しくマッサージし、血行を促進させます。これにより、筋肉の緊張をほぐすことができます。
・ STEP 3:温める
つった部位を手でさすったり、蒸しタオルなどで温めたりしましょう。
こむら返りが起きたとき、はじめにおこないたいのがふくらはぎのマッサージです。ここでは、こむら返り発症時におこなうマッサージの方法について紹介します。
こむら返りが起きたときは、収縮した筋肉を伸ばすことが大切です。ここでは、立ったままでできるこむら返りの対処法について解説します。
・ つったほうの足を後ろにして足を前後に開き、アキレス腱を伸ばすように立つ
・ 前に出しているほうの足の太ももに手を添える
・ そのまま前に重心をかけ、後ろ足のふくらはぎを伸ばす
・ 痛みがおさまるまで続ける。
こむら返りが起きたしまったときは痛みで動けなくなることがあります。ここでは、座ったままでできるこむら返りの対処法について解説します。
・ 床に膝を伸ばして座る
・ つったほうの足を前方に出し、もう一方の足は折り曲げる
・ つったほうの足のつま先を掴み、ふくらはぎを伸ばすようにつま先をゆっくり手前にそらしていく
・ 痛みがおさまるまで続ける
こむら返り(足がつる)予防のためには普段からの習慣に気をつけることが大切です。ここでは、こむら返りの予防方法について紹介します。
ミネラル不足は、こむら返りの要因であることがわかっています。普段からマグネシウムやカルシウム、カリウムといったミネラルを摂取することを心がけましょう。ミネラルの多い食べ物を知り、日々の食事に取り入れるとよいでしょう。
・ マグネシウムの豊富な食べ物
あおさ、かぼちゃの種、しらす干し、するめ、切干大根、なまこなど
・ カルシウムの豊富な食べ物
レタス、チンゲンサイ、牛乳、ヨーグルト、チーズ、サバ、いわしなど
・ カリウムの豊富な食べ物
煮干し、ほうれん草、人参、納豆、バナナ、干し柿など
身体の冷えは、血行不良につながります。普段から体を冷やさないように工夫することも、こむら返りの予防になるでしょう。
寒い冬はもちろん、夏でも冷房で冷えることがあります。入浴はシャワーだけで済ませるのではなく、しっかり湯船に浸かって身体を温めることが大切です。
水分不足も、こむら返りの原因のひとつです。とくに夏場や運動時には大量に汗をかくため、脱水状態になりやすいといわれています。
発汗した際の水分補給のポイントは、ミネラルも一緒に摂取することです。汗をかくと水分と一緒にミネラルも排出されてしまいます。そのため、汗をかいたときに水だけを飲むと、体内のミネラル濃度が低下し、こむら返りが起きやすくなってしまうのです。スポーツドリンクなどで、水分とミネラルの両方を補給するようにしましょう。
夏場や運動時のみではなく、冬場も油断は禁物です。冬場でも汗をかいたり、空気が乾燥いたりすることによってこむら返りが起きやすいといわれています。喉の渇きを感じる前に水分を摂取することを心がけましょう。
さらに、眠っている間にもコップ一杯ほどの汗をかいているため、注意が必要です。こむら返りの予防のため、就寝前にも水分補給をするようにしましょう。
こむら返りはさまざまな要因が重なって起こると考えられています。
主な原因は肉体的疲労と栄養不足です。具体的には運動や労働による肉体の疲労、発汗や水分補給の不足による脱水、ミネラルなどの電解質の不足、冷えなどの要因があげられます。そのほかにも、腎不全や糖尿病、甲状腺機能低下などの病気に関連して生じることもあります。
こむら返りを予防するには、普段からスポーツドリンクなどで水分とミネラルをこまめに補給することが重要です。
また、夏でも素足を避ける、長ズボンでの就寝やひざ掛けの使用を心がける、入浴時は湯船につかるなど、足を冷やさないよう意識しましょう。 座り仕事や立ち仕事が多い方は、休憩時にふくらはぎのストレッチや屈伸運動をおこなうこともこむら返りの予防になります。
こむら返りは、ほとんどの場合は数分間でおさまります。
ストレッチなど適切な対処をおこなうことで、症状は比較的早く緩和されます。
食事療法としては、ミネラル(電解質)とビタミンの摂取が重要です。
ミネラルは果物、野菜、味噌汁、乳製品、ナッツなどから摂取できます。ただし塩分の取りすぎには注意が必要です。また、筋肉の代謝にかかわるビタミンB群も効果的で、肉、魚、ナッツ、野菜などに含まれています。食事からの摂取が難しい場合は、サプリメントでの補給も検討しましょう。
こむら返りを予防する運動としては定期的なストレッチが効果的です。
床に座って、ふくらはぎを下から上へと優しくマッサージしましょう。強くもむと筋繊維を傷めるため、手を滑らせるようにおこないます。寝る前に毎日おこなうのがおすすめです。
また、適度な運動は筋肉量維持と血流改善により、こむら返りを予防する効果が期待できます。ただし、疲れが残ると逆効果になりかねないので、一度にやりすぎないようにしましょう。
ウォーキングやスクワットがおすすめです。スクワットは両足を肩幅に開き、両手を前に伸ばして膝の屈伸を10〜15回×1日2〜3セットおこないましょう。
こむら返りの原因や予防法について理解いただけたでしょうか。
こむら返りの原因などさまざまです。しかし、生活習慣に気をつけることで、ある程度予防することは可能です。
まずは、食事を通じてミネラルをしっかりとったり、水分補給を心がけたりするなど、できることからはじめてみるとよいでしょう。
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監修者:眞鍋 憲正医師 |
UT Austin所属/日本体育協会スポーツドクター/日本医師会健康スポーツ医
信州大学医学部卒業 / 信州大学大学院疾患予防医科学専攻スポーツ医科学講座 博士課程修了 / UT Southwestern Medical Center, Internal Medicine, Visiting Senior Scholar / Institute for Exercise and Environmental Medicine, Visiting Senior Scholar / UT Austin, Faculty of Education and Kinesiology, Cardiovascular aging research lab, Visiting Scholar