自分の体臭で周囲を不快にしていないか、不安に感じている方も少なくないのではないでしょうか。
他人に与える不快感だけではなく、体臭は病気の可能性をはらんでいることがあるので注意が必要です。
ここでは体臭の種類や原因、体臭と病気の関係性などについて解説します。
汗の臭いや口臭、加齢臭など、性別や年齢を問わず体臭に悩んでいる人は多いといわれています。
その一方、最近では「スメハラ」(スメルハラスメントの略)という言葉も登場しています。
スメハラとは「スメルハラスメント」の略で、体臭や口臭といったニオイによって周囲に不快感を与えることを指します。体臭だけではなく、香水や柔軟剤、タバコのニオイがスメハラの原因となるケースも少なくありません。自分では気づかぬうちに、スメハラを行っている可能性もありますので、注意が必要です。
また、「スメルマネジメント」とは、自分自身で体臭のケアや管理をすることです。セクハラやパワハラと異なり、ニオイはデリケートな問題であり、他人が指摘しづらいものです。そのためスメルマネジメントは、スメルハラスメント対策の観点からも重要視されています。
一口に体臭といっても、発生する部位や原因も人それぞれ。ここでは体臭が発生する仕組みや体臭の種類、発生原因などについて解説します。
体臭の主な原因と考えられているのは、汗と皮脂の常在菌です。また、その汗を分泌する汗腺は、主にエクリン汗腺とアポクリン汗腺に分かれます。
・エクリン汗腺......全身の皮膚表面にある汗腺
・アポクリン汗腺......脇の下や陰部、へそ周辺など、体の限られた部位にのみ存在する汗腺
エクリン汗腺とアポクリン汗腺、どちらから出る汗も分泌された時点では無臭ですが、皮膚表面で細菌が増殖したり、脂質などが分解されたりすることにより、ニオイが発生するといわれています。
ちなみに、ニオイやすい部位としては、足や脇、生殖器などがあげられます。
ストレス臭とは、緊張によってストレスを感じると発生するニオイで、男女問わず幅広い年齢層にみられます。
ストレスで自律神経が乱れると、腸内環境が悪化します。すると老廃物をうまく排出することができなくなります。こうして、排出されなかった毒素は血液を介して全身をめぐり、硫黄のようなニオイを発生させます。
肝機能の低下や、糖質不足などが原因で、口や皮膚からアンモニア臭やケトン臭などの酸っぱいニオイが発生することがあります。
通常、アンモニアは肝臓で分解されますが、過度な飲酒やストレスなどで肝機能が低下するとうまく分解されず、口や皮膚からアンモニア臭が発生する原因になります。
また糖質が不足すると、ケトン体と呼ばれる物質が増え、口や皮膚からリンゴが腐ったようなケトン臭が発生するケースがあります。
キャベツ臭とは、腸内環境の悪化や肝機能低下などが原因で発生する、生ごみのようなニオイです。
腸内環境が悪化すると、腸の中で動物性タンパク質などの成分が腐敗し、ニオイの元となる成分が発生することがあります。通常このようなニオイの元と中成分は、肝臓で分解されるのですが、アルコールの過剰摂取などにより肝機能が低下していると分解しきれず、生ゴミのような口臭を発することがあるのです。
まくら臭(ミドル脂臭)とは、30~40代の中年男性に多くみられる脂っぽいニオイです。これは、ジアセチルと呼ばれる成分が原因で主に頭から首のうしろにかけて発生し、まくらのニオイの元にもなります。また、ジアセチルの分泌量が多いのは30~40代の男性ですが、女性でも分泌されます。
ジアセチルは、表皮ブドウ球菌などの皮膚常在細菌が汗の中の乳酸を代謝することで発生することが判明しています。
栄養バランスの乱れや喫煙などにより代謝が低下すると、ブドウ球菌のエサとなる皮脂が過剰に分泌し、まくら臭(ミドル脂臭)が発生しやすくなるのです。
早期加齢臭とは、皮脂が酸化して発生するペラルゴン酸が原因となるニオイです。皮脂の分泌が盛んな20~30代の男性を中心に、主に首や胸、背中から劣化した油のようなニオイを放ちます。
加齢臭と比較して若い世代にも見られることがあるため、早期加齢臭と呼ばれ、油や糖質の過剰摂取などが原因で発生すると考えられています。
加齢臭とは、皮脂が酸化することで発生する、ネギのようなニオイです。これは、ノネナールと呼ばれるニオイ物質が原因で、男女問わず40~50代以降にみられます。
ノネナールは、脂肪酸が酸化した過酸化脂質と皮脂が結合すると発生します。頭や首周り、背中、脇元、胸などから分泌され、喫煙や運動不足、睡眠不足、栄養バランスの偏りなどが原因と考えられています。
体臭が、病気の発生を知らせるサインとなる場合もあります。ここでは、体臭と病気の関係について解説します。
甘酸っぱいニオイが発生している場合、糖尿病の可能性があります。
体内ではインスリンと呼ばれる物質が分泌され、ブドウ糖をエネルギーに変換していますが、糖尿病になるとインスリンの分泌が正常に行われず、ブドウ糖の代わりに脂肪を分解してエネルギーを作ります。この代謝の際にケトン体が発生し、甘酸っぱいニオイが発生することがあるのです。
汗臭が発生しやすい場合、甲状腺機能亢進症の可能性があります。
甲状腺機能亢進症とは、新陳代謝にかかわる甲状腺のホルモン分泌機能が過剰に働くことで、全身にさまざまな症状が引き起こされる疾患です。
甲状腺機能亢進症になると皮脂腺が活発になり、基礎代謝も高まります。結果的に汗や皮脂の分泌量も増え、汗臭が発生しやすくなります。
ニオイを感じなかったり、ニオイの感じ方が正常でなかったりする場合、中枢神経障害の可能性があります。
外部から運ばれてきたニオイ物質は、鼻の奥にある「嗅粘膜」に溶け込みます。すると嗅粘膜にある「嗅神経」と呼ばれるニオイのセンサー機能を持つ器官が、脳に信号を送りニオイとして感知されます。これがニオイを感じるメカニズムです。
しかし、なんらかの原因でニオイを感じとる中枢神経が障害を受けると、嗅覚も正常に機能しなくなります。結果的にニオイを感じなかったり、ニオイの感じ方に異常をきたしたりします。中枢神経障害は、主に頭部外傷や、脳腫瘍やアルツハイマーといった脳疾患が原因でおこると考えられています。
魚が腐ったような体臭がする場合、魚臭症候群の可能性があります。
魚臭症候群とは、魚が腐ったようなニオイを放つ代謝性の疾患です。
特定の物質が多く含まれる食べ物を摂取すると、消化の過程で、小腸でトリメチルアミンと呼ばれるニオイ物質が発生します。通常は、トリメチルアミンは肝臓で分解されるため、体外にニオイが出ることはありません。
しかし魚臭症候群になると、トリメチルアミンが肝臓で分解されなくなり、汗や尿から排出され、生臭いニオイの原因になるのです。
魚臭症候群はトリメチルアミン尿症とも呼ばれ、遺伝的要因が関係していると考えられていますが、詳しくは解明されていません。
腐った肉のようなニオイがする場合、口内炎症をおこしている可能性があります。
唾液には殺菌作用や抗菌作用があり、これによって口のなかをキレイに保っているのですが、口内炎や歯肉炎といった口内炎症がおきると、こうした作用が低下します。すると口の中が細菌の繁殖しやすい環境になり、腐った肉のようなニオイがすることがあります。
口臭がきつい場合は、慢性扁桃炎の可能性があります。
のどの奥にある「扁桃腺」が炎症をおこすと、扁桃腺炎になります。炎症を繰り返し、慢性扁桃炎になると「ニオイ玉」とも呼ばれる「膿栓」ができ、口臭が発生しやすくなります。
体臭を完全に防ぐことは難しいですが、生活習慣を整えることである程度は防ぐことができます。
例えば、ニオイの発生原因となる物質が増加しないように、腸内環境を整えることも1つの方法です。また、栄養バランスに気を配り、体臭を引き起こす病気になりにくい身体をキープすることも大切です。
ブドウ糖の代わりに脂肪を代謝させる糖質制限ダイエットでも、体臭が発生します。ニオイの原因となるケトン体の発生をおさえるためにも、過剰なダイエットは控えたほうが良いでしょう。
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体臭や口臭などのニオイは、自分では気づきにくいもの。そのため、自分自身がニオイを感じていなくても、ニオイケアをすることが必要です。
例えば、男性ホルモンの一種「アンドロステロン」は強いニオイを発する成分ですが、女性は感じやすく男性は感じにくいといわれています。
さらに、同じニオイを継続的に嗅いでいると、そのニオイに鈍感になっていく「馴化」と呼ばれる現象がおきることがあります。近年の研究では馴化現象には個人差があり、誰にでもおきるわけではないことが分かっていますが、注意しておくに越したことはありません。
体臭には「ストレス臭」「加齢臭」「ミドル脂臭」など種類がさまざまあり、原因もストレスや加齢、生活習慣の乱れ、腸内環境の悪化や肝機能低下と多岐にわたります。
体臭を防ぐには、栄養バランスや生活習慣に気を配り、腸内環境を整えるなどでニオイの原因となる物質の発生を抑制することが有効です。ただし体臭は、糖尿病など病気が原因で発生することもありますので、注意が必要です。
また、自分の体臭は気づきにくいからこそ、意識的にニオイケアをすることも大切です。しかし、あまり気にしすぎると、それがストレスとなり、かえって体臭を招くこともあります。自分の状態をしっかり見極めながら、ニオイ対策をしていきましょう。
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監修者:木村 眞樹子医師 |
東京女子医科大学医学部卒業後、循環器内科、内科、睡眠科として臨床に従事している。
妊娠、出産を経て、また産業医としても働くなかで予防医学への関心が高まった。医療機関で患者の病気と向き合うだけでなく、医療に関わる前の人たちに情報を伝えることの重要性を感じ、webメディアで発信も行っている。