いびきは、何らかの要因で気道(空気が通る道)が狭くなり、その狭くなった気道を空気が通過する際に粘膜などが振動して発生します。
いびきは、振動する部位によって「鼻いびき」と「喉いびき」の2つに大別されます。まずは、それぞれの特徴と原因について確認していきましょう。
鼻いびきは、おもに鼻腔(鼻のなかの空間)が狭くなることが原因で起こるいびきです。
花粉症や風邪などによって鼻腔に炎症が生じると、粘膜が腫れて鼻腔が狭くなります。この状態で呼吸をすると、鼻や口内の粘膜が振動し、いびきが発生します。鼻いびきは一過性のものが多く、原因が解消されれば自然に治まるため、通常は心配する必要はありません。
ただし、鼻中隔側弯症のように鼻の形状が原因で気道が狭くなっている場合は、手術が必要になることもあります。
喉いびきは、おもに舌が気道に落ち込むことで発生するいびきです。
本来は昼夜問わず鼻呼吸をすることが理想的ですが、鼻づまりや出っ歯、骨格の影響などで口呼吸になっている場合、喉いびきが発生する可能性があります。起きている間は、筋肉が気道を支えているため、空気がスムーズに通ります。しかし筋肉が緩む就寝中は、舌が後方に下がり気道が狭くなります。そのため、口呼吸をした際に空気が通りにくくなり、喉の粘膜や軟口蓋(口のなかの天井の部分)が振動し、いびきが起こるのです。
喉いびきは病気が原因のことも多く、放置すると悪化するケースもあるため注意が必要です。
いびきは、その発生頻度に応じて「散発性いびき」と「習慣性いびき」に分類されます。ここでは、それぞれの原因やリスクについて解説します。
散発型いびきとは、風邪で扁桃腺が腫れている時や、花粉症で鼻が詰まっている時などに一時的に現れる、一過性のいびきです。
散発性いびきの主な原因は、筋肉の緩みや扁桃腺の腫れなどにより気道が狭くなることです。基本的には健康への影響は少なく、心配はいりません。
習慣性いびきは、散発性いびきとは異なり、寝ている時にいつもかいているいびきです。
習慣性いびきには「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」にともなういびきと「単純性いびき」があります。それぞれの特徴は次のとおりです。
・睡眠時無呼吸症候群(SAS)にともなういびき
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、寝ている間に無呼吸や低呼吸(浅い呼吸)が起こる病気です。気道が狭くなることで低呼吸が起こり、完全にふさがれると無呼吸状態になります。
気道が狭くなり呼吸が止まる「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)」と、脳の異常などで呼吸の指令が届かなくなって呼吸が止まる「中枢性睡眠時無呼吸(CSA)」の2つがあります。いびきをともなうのは、前者の「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)」です。
・単純性いびき
単純性いびきとは、睡眠時無呼吸症候群(SAS)のように無呼吸になることはなく、睡眠の質に大きな影響を与えないいびきです。基本的には日中に眠気を引き起こすことはなく、酸素不足になることもないため、健康リスクは低いといえます。
習慣性のいびきは、病気が原因であることも多く、病院の受診が必要なケースもあります。特に閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)が発生している場合は血管に大きな負担がかかり、高血圧や心不全、脳卒中などのリスクが高まるため、早期の治療が必要です。
女性の場合は、加齢による女性ホルモンの分泌量の低下も、いびきの原因になると考えられています。
いびきの原因は人それぞれです。ここでは、いびきをかきやすくなる原因のうち、典型的なものを紹介します。
枕が高すぎると気道が狭くなり、いびきを誘発します。また、敷き布団の硬さや後頭部の形状にもよりますが、枕が低すぎると口呼吸をしやすくなり、結果としていびきを引き起こすことがあります。
自分にあった高さの枕をすることが重要ですが、いびきがひどい場合はほかにも原因が考えられるため、枕の高さの調整だけでは解消できない可能性があります。
仰向けで寝ると、重力により舌が喉の方へ沈み込むことで気道が狭くなるため、いびきをかきやすくなります。
口呼吸の時は、舌が後方に落ち、気道が狭くなりやすくなります。また、喉の乾燥を招く上に空気中のホコリや細菌が付着することで、喉に炎症が起こりやすくなります。
喉に炎症が起きると、腫れで気道が狭くなります。そのため口呼吸が習慣化している場合、慢性的に気道が狭くなりやすく、いびきも起きやすいのです。
ストレスがたまっていたり、嚙み合わせに問題があったりする場合は口呼吸になりやすくなると考えられていますので、気になる方はストレス緩和を心掛けるのもよいでしょう。
アルコールには筋肉を緩める作用があるため、お酒を飲むと喉や舌の筋肉が緩んで気道が狭くなります。
寝る前に飲酒をすると、喉や舌の筋肉が緩んだ状態で眠りにつくことになるため、いびきが起きやすくなります。
タバコを吸うと、喉や鼻の粘膜に炎症や腫れ、むくみが生じ、気道が狭くなり、いびきをかきやすくなります。
また喫煙は、無呼吸症候群の原因になることも研究で明らかになっています。
疲労がたまっている時は首の筋肉が緩み、気道が狭くなりいびきが起きやすくなります。
また疲れていると、身体は多くの酸素を取り込もうとして口呼吸になります。口呼吸の時は気道が狭まりやすくなるため、いびきも起こりやすくなります。
風邪をひいている時は喉が腫れ、気道が狭くなり、いびきが発生しやすくなります。
鼻がつまることで口呼吸になり、気道が狭くなるというケースもあります。
いびきは、生活習慣を見直すことで改善できる場合があります。実際に、閉塞性睡眠時無呼吸症候群も、生活習慣の改善で予防できると考えられています。
ここでは、いびきを予防するための対処方法について解説します。
肥満により首周りに脂肪がつくと、気道が圧迫されて狭くなり、いびきをかきやすくなります。
そのため、肥満体型を解消することも、いびきの予防につながります。
飲酒や喫煙は、舌や喉の筋肉を緩め、いびきを誘発します。特に寝酒はいびきの原因となりやすいため、就寝前の飲酒は避けるようにしましょう。
いびきを予防するには、生活習慣を見直すことも大切です。
寝室の湿度が低いと、喉の粘膜が乾燥し、炎症が起きやすくなります。
炎症によって気道が狭くなると、いびきをかきやすくなりますので、寝室の湿度を適切に保つことも、いびきの予防に有効です。
一般的に快適に眠ることができるとされている寝室の湿度は50%前後です。
また室温が高すぎても、喉の筋肉が緩み、いびきを誘発します。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針2014」によると、夏では高め、冬では低めとなるものの、寝温は13〜29℃を目安にすることが推奨されています。
口呼吸はいびきの原因のため、癖になっている方は意識的に鼻呼吸に切り替えるようにしましょう。
最初は息苦しく感じるかもしれませんが、日ごろから鼻呼吸を心掛けていると徐々に慣れ、口呼吸を改善できる可能性があります。
ただ、睡眠中は意識がないため鼻呼吸に切り替えようとしてもなかなか難しいかもしれません。このような場合には、いびき対策グッズを使い、睡眠中の鼻呼吸に慣れていくのがおすすめです。唇に貼って口呼吸を防止するテープやなどさまざまな商品があるため、自分に適したいびき対策グッズを使ってみてはいかがでしょうか。
横向きに寝ると喉が緩み、気道に空気が通りやすくなるためいびきをかきにくくなります。
しかし、寝ている間ずっと横向きの姿勢を維持するのは難しいものです。背当てのある横向き寝枕を活用するなど、横向きの姿勢を朝まで楽に維持できるように工夫してみましょう。
いびきには、さまざまな病気が関連しています。病気を早期発見・早期治療するためにも、いびきと関連する主な病気について詳しく見ていきましょう。
いびきは、上気道に何らかの障害がある場合に発生しやすく、その原因として感染症が挙げられます。たとえば、風邪やインフルエンザ、RSウイルス感染症など鼻や喉に症状が現れる感染症は、粘膜の炎症や腫れを引き起こし、気道が狭くなるため、いびきが発生しやすくなります。
また、副鼻腔炎も鼻の通りが悪くなり、口呼吸を余儀なくされることでいびきを引き起こすことがあります。発熱や咳、鼻水など、いびき以外にも症状がある場合には、感染症や副鼻腔炎によるものかもしれません。
感染症による一時的ないびきであれば、治癒が進むにつれて改善しますが、慢性的な感染症や慢性副鼻腔炎によって起きている場合は長期化します。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に繰り返し呼吸が止まったり浅くなったりして体が低酸素状態に陥る病気です。主に「閉塞型」と「中枢型」があり、前者が大部分を占めます。閉塞型では、空気の通り道が狭くなり、特に肥満や顎の骨格異常、扁桃腺の肥大が原因で発生します。
症状は、いびき、夜間の頻繁な目覚め、起床時の頭痛や倦怠感、日中の強い眠気などです。全身の酸素不足によって高血圧、心筋梗塞、脳卒中などのリスクが増加するため、早期発見・早期治療が重要です。
治療法としては、経鼻的気道持続陽圧療法(CPAP療法)が一般的で、鼻にマスクを装着し、機械で空気を送り込むことで気道を開いた状態に保ちます。無呼吸が防止され、症状の改善が期待できます。そのほか、生活習慣の改善や、肥満が原因の場合は減量も有効です。
甲状腺機能低下症は、甲状腺が正常に機能せず、体内で必要な甲状腺ホルモンが十分に産生・分泌されない状態です。甲状腺ホルモンは、エネルギーの消費、脈拍、体温、自律神経の働きを一定に保つ役割を担っています。
症状には、倦怠感、疲れやすさ、寒がり、皮膚の乾燥、声の嗄れ、便秘、むくみ、体重増加、動作の遅さ、物忘れなどがあります。症状は少しずつ現れることから、ほかの病気との区別が難しく、診断が遅れることも珍しくありません。
甲状腺機能低下症の検査では、血液検査で甲状腺ホルモンとそれを調節するTSH(甲状腺刺激ホルモン)のレベルを測定します。治療では、欠乏している甲状腺ホルモンを補うためのホルモン薬を使用することで症状の改善が期待できますが、少しずつ服薬量を増やす必要があるため、改善には数カ月以上かかります。
いびきの原因となっている病気を治療することで、いびきの改善が期待できます。睡眠時無呼吸症候群であれば経鼻的気道持続陽圧療法(CPAP療法)で無呼吸を防止できるため、症状の改善が可能です。ただし、根本的な治療ではないため、CPAP療法をおこなわずともいびきを防ぎたい場合は、生活習慣や肥満の改善が必要です。
また、甲状腺機能低下症については、甲状腺ホルモンの分泌量を増やす治療法は確立されていないため、継続的に甲状腺ホルモンを補う治療を受ける必要があります。
いびきが気になる場合は医療機関を受診し、原因を特定することが先決です。正確な診断に基づいた適切な治療を受けることで、いびきの改善や関連する健康リスクの低減が可能になります。
いびきの原因となる病気に応じて、受診する診療科が異なります。睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、下記の診療科を受診しましょう。
・耳鼻咽喉科
・循環器内科
・呼吸器内科
上記の中でも耳鼻咽喉科は、睡眠時無呼吸症候群と鼻の病気の両方に対応しています。また、甲状腺機能低下症が疑われる場合は、内分泌科を受診しましょう。しかし、症状だけでいびきの原因となっている病気を推測することは難しいかもしれません。
まずは、いびき外来で睡眠時無呼吸や鼻の病気が原因かどうかを確認し、甲状腺機能低下症などが疑われる場合は必要に応じて適切な診療科の紹介を受けることも1つの方法です。
いびきの原因は人それぞれです。一過性の散発性いびきは健康にさほど影響しませんが、慢性的に起こる習慣性いびきは病気が原因のこともあります。病気が原因の場合、いびきだけではなく、睡眠不足による倦怠感や集中力の低下などによって日常生活に大きな影響を与える恐れがあるため、できるだけ早く病院を受診するのが望ましいでしょう。
一方でいびきは、生活習慣を見直すことで対策できることもあります。自分の生活習慣や状況を鑑みながら、いびきの対策をすることも重要です。
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監修者:稲葉 岳也医師 |
専門:耳鼻咽喉科・皮膚科・アレルギー科
日本耳鼻咽喉科学会認定 耳鼻咽喉科専門医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医
東京慈恵会医科大学卒業後、千葉大学大学院にて医学博士取得。
東京慈恵会医科大学附属病院、聖路加国際病院を経て、2004年にいなばクリニックを開業。皮膚科、美容皮膚科、形成外科、美容外科、耳鼻咽喉科、呼吸器内科、アレルギー科を主体として、幅広い視点で総合的な診療を行う。レーザー機器を導入した医療を行っており、幅広い年齢層を対象としたホームドクターとして、地域密着の診療に尽力。