ノミ刺され(ノミ刺咬症)とは、ノミに皮膚を刺されることでおこる皮膚疾患です。
ノミに限らず、蚊やハチ、ハエ、毛虫など、虫によっておこる痛みやかゆみ、赤みや腫れなどの被害を「刺虫症」と呼びます。
刺虫症のうちノミによる被害が、ノミ刺され(ノミ刺咬症)です。
ノミ刺されは強いかゆみが特徴で、かき壊すと傷口から感染症をおこすケースもあります。
日本には約70種類、世界には約2000種のノミが生息するといわれています。
人の血を吸うノミにはヒトノミ、スズメトリノミ、ネコノミ、イヌノミなどがあげられますが、ノミ刺され(ノミ刺咬症)はネコノミによるものが多いといわれています。
ノミ刺され(ノミ刺咬症)の症状は、発疹や痒み、水ぶくれ、数ミリから数センチの赤みやかさぶた、アレルギー反応による皮膚炎などです。
刺された直後は刺されたことに気が付かず、1~2日後にかゆみがあらわれるケースが多いようです(遅延反応)。かきむしってしまうと、傷口から細菌感染をおこし、膿んだり跡に残ったりすることがあります。
このようなノミ刺され(ノミ刺咬症)の症状は、ノミの唾液に対するアレルギー反応で生じるため、ノミに対する免疫の有無で症状のあらわれ方に差が出ます。ネコノミによるノミ刺され(ノミ刺咬症)の場合、猫や犬の飼育経験がある人は症状が出にくく、猫や犬の飼育経験がない人は、症状が出やすい傾向にあります。
ノミ刺され(ノミ刺咬症)では強い痒みが数日間続きます。
水ぶくれや腫れ、丘疹(ブツブツ)を生じるケースが多く、刺された場所には肉眼で確認できる跡がつきます。またノミは通常複数カ所を刺すため、狭い範囲に刺し跡が点在するのが特徴です。水ぶくれや腫れ、丘疹(ブツブツ)はひどい場合にはサクランボほどの大きさになることもあります。
ただし刺された直後は症状があらわれないため、刺されたことにすぐには気づかないケースも多いです
症状が軽度の場合、自然に治ることが多いため、基本的に治療は必要ありません。
しかし、痛みや腫れが強い、水ぶくれができているなどの場合、早めの治療が必要です。
ノミはペットの犬や猫に付着して、家の中に入ってくることが多いといわれています。
ノミは屋外では土のあるところに多く生息し、ガーデニングの際などに、人間の服や靴などに付着して室内に持ち込まれることもあります。
ノミは、犬や猫、人の体表で吸血し卵を産みます。卵は熱や乾燥といった外部刺激に強く、宿主の生活環境のなかで2〜12日で孵化します。孵化した幼虫は、ノミの糞や埃などをエサに増殖します。
このようにノミは繁殖力が高く、1匹でも家の中で見つけた場合には早急な対処が必要です。
ノミは動物や人の体温や動き、吐息に含まれる二酸化炭素に反応して寄生します。
そのため体温が高い人は刺されやすいといえるでしょう。
また皮膚が柔らかい人も、ノミに刺されやすい傾向にあります。
ノミ刺され(ノミ刺咬症)のかゆみや炎症は、市販薬では治らないケースもあります。
一般の方でも手軽に買える市販薬は、幅広い症状に対応できるように複数種類の有効成分が含有されています。
副作用などのリスクは抑えられる反面、十分な効果が得られないケースもあるのです。
市販薬を5~6日使用しても改善がみられなかったり、水ぶくれなどの症状があらわれたりした場合には、皮膚科を受診して、ステロイド外用剤(塗り薬)を処方してもらいましょう。
病院でしか入手できない処方薬は、特定の症状に対して処方されるため、単一の有効成分が配合されています。
医師の指示を厳格に守って服用する必要がありますが、高い効果が期待できるわけです。
症状によっては痒み止めの作用をもつ抗ヒスタミン薬や、ステロイド内服薬を使うこともあります。
すぐに病院へ行くことが難しかったり、症状が軽かったりする場合は、患部を冷やしましょう。
ノミに刺された場所を保冷剤などで冷やすことで、かゆみを緩和できます。
治療しないまま放置していると、とびひ(伝染性膿痂疹)や蜂窩織炎(ほうかしきえん)などの感染症を生じるケースもあります。
とびひとは、傷口などからブドウ球菌や溶血性連鎖球菌が入り込むことで発症する感染症です。
蜂窩織炎(ほうかしきえん)は皮膚とその下部組織におこる、広がりやすい細菌感染症です。
おもに皮膚にできた小さな傷から、レンサ球菌とブドウ球菌が体内に入り込むことで発症します。重症の場合、早期の治療が必要です。
ノミ刺され(ノミ刺咬症)の被害を防ぐには、まずはノミに刺されないように対策をすることが大切です。
たとえばガーデニングの際は長ズボンを履き、足元の肌の露出をしないといった工夫で、ノミに刺されるリスクを減らすことができます。
公園や草むらなどノミがいそうな場所に出かける時は、虫よけスプレーを塗布するのも効果的です。
虫よけスプレーの有効成分には「ディート」や「イカリジン」「天然ハーブ」などがありますが、ディートを成分としたものを選びましょう。ディートは、吸血害虫の感知能力を混乱させ、吸血行動を阻止する効果があり、ノミやダニ、蚊やアブなど多くの虫に対する効果が確認されています。
ノミが繁殖しにくい環境をつくることも重要です。ノミは多湿環境を好むため、特に湿度の管理と換気が欠かせません。ペットについたノミが部屋で繫殖するパターンも多いので、対策が必要です。
以下のような方法でノミが繁殖しにくい環境を整えましょう。
・ 掃除機をかける(畳・カーペット・押し入れ・家具のすき間・ペットのゲージの床は念入りに)
・ 扇風機や換気扇で室内の風通しを良くする
・ 湿気が多い時は除湿器で湿度を下げる
・ 猫や犬にはノミ駆除薬を使う
家にノミがいるか調べる方法のひとつは、白い靴下を使うものです。
白い靴下を履いて家のなかを歩き回ったあと、付着物を確認します。ノミは褐色をしているので、靴下が白いと見つけやすいのです。
ノミの糞を探す方法も有効です。
ノミの糞は、すりゴマ程度の大きさでカール状になっていることもあります。家のなかでそれらしきものを見つけたら、濡らしたティッシュの上に置きます。溶けて赤褐色になれば、ノミの糞の可能性が高いです。
ノミやその糞のチェックは、湿気がたまりがちな、以下の場所を念入りにおこないましょう。
・ カーペットや畳の隙間
・ 寝具
・ ペットの寝床
・ 椅子やクッションの下
ペットを飼っている場合、ペットの毛をブラッシングして、付着物を確認する方法もあります。
家のなかでノミを見つけたら、できる限り早く駆除することが肝心です。
ノミの繁殖能力は凄まじく、宿主に寄生してから約10分で吸血を開始し、約24~48時間後には産卵を開始するといわれています。1匹のノミが、50日間で1,745個産卵したとのデータもあります。ノミに対応した燻煙タイプの薬剤を使用したあと、掃除機をかけることでノミを減らすことが可能です。
ただし、目に見えるノミは全体の5%程度の成虫のノミだけで、ほとんどは卵や幼虫、さなぎの状態で潜んでいるといわれています。そのため、自力でノミを駆除することは困難でしょう。
ノミを駆除するには、ノミのライフサイクルを理解し、定期的に駆除をおこなうことが有効です。
ノミは温度が20~30℃程度、湿度が75%~85%の環境で活発になると考えられていて、夏場に活発に繁殖する傾向にあります。
ただし近年ではエアコンなどの空調設備の普及により、冬でも家の中は暖かく、季節を問わずノミが繁殖するリスクがあります。そのため年間を通してノミ対策をすることが大切です。
ノミ刺され(ノミ刺咬症)とダニ刺され(ダニ刺咬症)では、症状は似ていますが、刺し跡が異なります。
ノミ刺され(ノミ刺咬症)は複数の小さな赤い発疹が直線状に並ぶことが多く、ダニ刺され(ダニ刺咬症)では輪状の発疹(靶標状紅斑)や広範囲の炎症がみられることが多いです。
ノミを完全に駆除することは難しいでしょう。ノミの卵は外部刺激に強く、薬剤に対する耐性もあります。少しでも減らすために、掃除を念入りにおこなう、ノミ対応の薬剤を使用するなどの策を講じましょう。徹底的に駆除したい場合、害虫駆除業者に依頼するのも手段のひとつです。
症状が刺された部位以外にもあらわれる場合や、数日たっても改善しないような場合には皮膚科の受診が必要になります。受診の際には、症状だけでなく症状がではじめた時期や、直前の行動(いつどこで、何をしたあと症状がでたのか)などを、正確に医師に伝えることが大切です。
ノミ刺され(ノミ刺咬症)の主な症状はかゆみや発疹、水ぶくれなどです。軽症の場合、治療は不要ですが、重症の場合や長引く場合、皮膚科の受診が必要になります。
治療せずに放置すると、とびひや蜂窩織炎などの合併症をおこすケースもあるので注意が必要です。
ノミ刺され(ノミ刺咬症)は予防できます。
肌を露出しない、虫よけスプレーを使うなどノミに刺されないように工夫をする、家の中でノミを見つけたらできるだけはやく駆除するなど、しっかりと対策をすることが大切です。
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監修者:伊藤 幹彦医師 |
内科・皮膚科医(日本外科学会認定外科専門医、日本循環器学会認定循環器専門医、日本医師会認定産業医)
東京医科大学八王子医療センターなどで心臓血管外科として勤務後、東京警察病院外科医長に。2010年に伊藤メディカルクリニックを開業し、心臓血管外科を専門とし、高血圧や糖尿病、AGAなど幅広く対応している。「みなさまの健康を生涯にわたってお守りするよきパートナーとして、わかりやすく、丁寧な診察に努める」がモットー。