人の身体は約60%が水分でできており、そのうち3分の2が細胞の中に、3分の1が細胞の外側にあります。
通常、細胞の内と外の水分量は一定ですが、細胞外の水分量が増加するとむくみが発生します。
細胞の外側にある水分は「細胞外液」と呼ばれ、血液やリンパ液、細胞と細胞の間を埋める細胞間質液から成り立っています。
細胞間質液は、血液に乗って運ばれてきた酸素や栄養を細胞に届け、細胞からな老廃物を受け取ってリンパ管、血液へと送り届ける役目を担っています。
細胞間質液は栄養などの受け渡しのために血管壁を通り抜けることができますが、この細胞間質液が過剰に増加したり、リンパ管、血管へ吸収される水分が減少したりすることでむくみが発生します。
長時間座ったままのデスクワークや長時間の立ち仕事などで、同じ姿勢を長時間続けると、一時的なものではありますが、むくみを生じやすくなります。
長時間同じ姿勢でいることで血流が滞り、結果として血管からの水分流出が増加します。そして流出した水分が溜まってしまいむくみの原因となります。
水分は重力で下肢に溜まりやすくなりますが、歩行時には足の筋肉が血液を心臓へと送り返すポンプ作用を果たしてくれるため、むくみを防ぐことができます。
運動不足は、むくみの大きな要因です。
運動量が減ると筋肉の力が低下し、血流の滞りにつながります。この血流の滞りが、血液中の水分が外に漏れ出す原因となり、結果的に身体に余分な水分が溜まってしまいます。
つまり、定期的な運動を怠ると、血流が悪化し、身体にむくみがあらわれる場合があります。
水分や塩分を過剰に摂取すると、むくみの原因となります。
体内に入った過剰な水分は血液量の増加を引きおこし、その一部が血管外に漏れ出して、むくみを引きおこしやすくなります。
とくに、塩分の過剰な摂取は身体の塩分濃度のバランスを崩します。バランスの乱れに対応するために身体は水分を保持しようとします。この過程で体内の水分量が増え、結果的にむくみを生じます。
人の身体は塩分濃度を一定に保つ機能を持っているため、過剰な塩分摂取にあわせて水分を摂ることで、不要なむくみをもたらすことになります。むくみをおこしたくない日の前日は、水分や塩分の過剰摂取に注意しましょう。
身体の冷えは血液循環を滞らせ、むくみの原因となることがあります。
具体的には、身体が冷えることで血管収縮を招き、結果として、血管から漏れ出る水分量が増え、身体の特定の部位に水分が溜まりやすくなります。
さらに、冷えによって筋肉の緊張が高まり、血流を促進する筋肉の活動が低下することも、むくみを引きおこしやすくします。
アルコールの過剰摂取が、むくみの原因になることもあります。飲みすぎた次の日に、顔がひどくむくんだ経験した方もいらっしゃるのではないでしょうか。
血液中のアルコール濃度が上昇すると血管が拡張します。すると、血液やリンパの循環が追いつかず、水分が血管から身体の組織へと漏れ出しやすくなり、結果としてむくみが発生します。
女性は、生理の時期にホルモンバランスが変化することにより、むくみを生じることがあります。
妊娠の維持に欠かせないホルモンである「プロゲステロン(黄体ホルモン)」は、子宮内膜の安定や乳腺の発達に関わり、排卵後に分泌が増加します。このホルモンは体温をわずかながら高める特徴があり、体内に水分を保持しやすくする性質も持っています。
女性の場合この働きによって、生理前には体内の水分保持が増し、むくみやすい状態を生じます。女性ホルモンの変動によって生じるむくみは、自然な身体の反応の1つといえます。
妊娠中や出産後にむくみを経験する女性は少なくありません。
妊娠が進むにつれてお腹が大きくなると、下半身への血液循環に影響を与えます。特に、下大静脈といった脚の静脈が圧迫されることで血行が悪化し、足のむくみが生じやすくなります。
足だけでなく全身にむくみがみられ、息切れや咳、動悸などをともなう場合は、周産期心筋症による心不全の兆候である可能性があります。周産期心筋症とは、産褥(さんじょく)性心筋症とも呼ばれ、心筋症の既往のない女性が妊娠や出産を通じて心機能が低下し、身体への血液供給が不十分になる重大な症状です。心不全を発症するケースもあります。特にリスクが高まるのは高齢妊娠や多胎妊娠、高血圧の方などで、適切な医療機関での相談が重要です。
このほか、出産による体内の羊水の急激な減少や母乳生成のために水分が必要になることから、身体が水分を保持しようとすることも、むくみの原因となります。
治療薬の副作用として、むくみがあらわれるケースもあります。
特に、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)のロキソプロフェンやアセトアミノフェン、血圧を調整するカルシウム拮抗薬やACE阻害薬、薄毛治療に使用される血管拡張薬のミノキシジル、抗生剤や抗がん剤などが原因でむくみがおこることが知られています。
薬を服用中にむくみを経験した場合、自分で判断せず、医師に相談しましょう。
むくみの背景に、深刻な病気が隠れている場合もあります。
たとえば「下肢静脈瘤」では、むくみに似た症状があらわれます。
下肢静脈瘤は静脈弁の機能異常により血液が逆流し、皮膚に近い静脈が膨らむ病気です。
足のだるさや重さを感じたり、こむら返りがおきやすくなったりします。
「深部静脈血栓症」は、静脈に血栓ができて詰まってしまう病気です。片方の足全体やふくらはぎが、急に赤黒く腫れあがります。
飛行機や新幹線の利用時など、長時間同じ姿勢を維持した際におきやすいといわれています。血栓が足の静脈から飛んで肺の血管につまると、肺塞栓症(いわゆるエコノミー症候群)の原因となる可能性があります。
「リンパ浮腫」でもむくみが生じます。
リンパ浮腫とはリンパ管やリンパ節に障害がおこり、リンパ液がたまってむくみなどんだ状態です。初期段階では症状がわかりづらく、見落とされるケースもあります。
むくみの効果的な解消手段として、マッサージがあります。
マッサージの際、筋肉を深くもみほぐすよりも、血液やリンパの流れを促進することに重点を置くことが大切です。特に、心臓から遠い部位から近い部位へ、たとえば足先からはじめ、徐々に太もも方向へとやさしくなでるようにマッサージするのがコツです。
乳液やクリーム、マッサージオイルを使用することで、肌への摩擦を減らし、よりスムーズにマッサージができます。
むくみを和らげるためには、ストレッチも有効です。
特に、ふくらはぎの筋肉を活用したストレッチを取り入れましょう。ふくらはぎのポンプとしての機能を活性化し、血液循環を促すことで、むくみを効果的に軽減することができます。たとえば、立ち仕事で足の重さを感じた際、爪先立ちをしてかかとを繰り返し上げ下げするといった運動がおすすめです。
また、座った状態でもふくらはぎの筋肉を動かすことは可能です。座りながらかかとを持ち上げたり、爪先を上げたりして足の裏を動かしましょう。
ふくらはぎのストレッチはデスクワーク中や長距離の移動中にも実践できます。凝り固まった筋肉や関節をやわらかくし、血流を改善するのに役立ちます。足首を回す、膝を曲げ伸ばしするなど、さまざまな動作を取り入れて、全身の血行促進を目指しましょう。
むくみを和らげるためには、温かいお風呂にゆっくり浸かることもおすすめです。全身を温かいお湯で温めることにより、血液の流れが促進され、むくみ解消へとつながります。
さらに、お湯の水圧が身体にかかることで、体内の余分な水分を排出してくれる効果も期待できます。もし、全身の入浴が難しい場合でも、足湯を利用することで同様の効果を得ることができます。洗面器やバケツに温かい水を満たし、足を浸すだけで血行が促進され、むくみの軽減に役立ちます。
疲れている時や就寝前に実践できる、簡単な足のむくみ解消方法として、足を高く上げる方法があります。重力により身体の水分が下半身に集中しやすいため、足を上げることでその流れを逆転させ、足のむくみの解消に役立ちます。
ポイントは、床に横たわりながら足を椅子に乗せる、あるいはベッドに横になって壁に足を立てかけるなど、足の位置を心臓よりも高い位置に保つことです。シンプルな方法ですが、体内の水分循環を促し、足の疲れや重さを軽減する効果が期待できます。
むくみを予防するには、定期的に適度な運動を取り入れることが効果的です。
運動により筋肉を動かすことで血液の循環を促し、体内の水分が適切に管理され、むくみの発生を防ぎます。特に、足の筋肉を鍛えることで、むくみのリスクを減らすことができます。
ウォーキングやジョギングといった運動がおすすめです。忙しい場合でも、日常生活で階段を利用したり、速歩きを心がけたりすることで、効果的に運動を取り入れることができます。
むくみを予防するためには、身体を冷やさないことが大切です。体温が下がると血流が悪くなり、むくみの原因となります。
特に冷えやすい冬は要注意です。足はむくみが生じやすいため、レッグウォーマーや厚手の靴下を使用して、防寒対策を心がけましょう。
また、夏場でもエアコンによる冷えや、冷たい飲み物や身体を冷やす食べ物に気をつける必要があります。身体を冷やす食べ物や飲み物は控えめに、暖めてくれる食べ物や飲み物を積極的に摂取しましょう。
身体を温めるには、入浴も効果的です。
冷えを感じやすい冬場はもちろん、エアコンで体を冷やしがちな夏場にも積極的に活用しましょう。忙しくて入浴時間が取れない場合は、より手軽な足湯でもOK。
足湯による部分的な温熱効果が血行を改善し、むくみを防ぐ助けになります。
足や身体に負担をかける靴や衣服を避けることもむくみ予防になります。
特にハイヒールやサイズが合わない靴は、足への圧迫が血液循環を悪化させ、むくみの原因となることがあります。
また、身体を締めつけるような下着や衣服も同様に血行を阻害し、むくみを引きおこす可能性があります。適切なサイズの靴や服を選ぶことがポイントです。
むくみに悩む方には、弾性ストッキングの着用が効果的です。
足に適度な圧力をかけ、血液やリンパ液の循環を促進するための医療用ストッキングです。一般に市販されている着圧ソックスと比べて、より安定した効果のむくみ解消グッズといえます。
ただし、使用を開始する前には必ず医師に相談し、適切な判断を仰ぐことが大切です。
専門家のアドバイスを受けながら、弾性ストッキングを上手に活用しましょう。
アルコールを控えることは、むくみ予防につながります。
アルコールを飲んだ直後は血管が拡張し血流が改善されるように感じますが、これは一時的なものです。結果的には、血液中の水分が血管から身体の組織へ漏れ出て、むくみを引きおこしやすくします。
さらに、アルコール摂取後の水分摂取量が増える傾向があり、むくみの一因になります。
お酒を飲むにしても過度な飲酒は控え、休肝日を設けるなどが大切です。
塩分摂取を控えることも、むくみを予防する対策の1つです。
過剰な塩分摂取は、身体が塩分濃度を一定に保とうとする生理的な反応を引きおこし、むくみの原因になります。特に、日本人は塩だけでなくしょう油やみそなどの調味料をよく使用するため、塩分を過剰摂取しがちです。
むくみ予防には、意識して普段の塩分摂取量を減らすことが必要です。塩分を多く含むインスタント食品だけでなく、みそ汁や漬物、つくだ煮など塩分が多い和食の摂取にも注意し、摂取量を調整することが大切です。
塩分摂取量の管理には、減塩食を選ぶことも助けになります。また、盲点になりがちですが、お酒のお供であるおつまみも、味が濃く塩分が多い傾向にあるので注意が必要です。
一般的に、塩分の過剰摂取が問題とされる日本人にとって、むくみ予防にはカリウムの摂取が効果的です。カリウムは体内のナトリウム(塩分)を排出する役割を持ち、バランスのよい食生活には欠かせないミネラルです。
しかし、現在の日本人のカリウム摂取量は、あらゆる年代で推奨される目標量に達していないのが実情です。カリウムを豊富に含む食品には、バナナやキウイフルーツといった果物、さつまいもや長芋といった芋類、アボカドやほうれん草といった野菜、そしてわかめや昆布といった海藻類があります。これらの食べ物を積極的に取り入れることで、カリウム摂取量を増やし、塩分によるむくみのリスクを減らすことができます。
ただし、カリウムは水に溶けやすい性質を持っているため、可能な限り生で食べるか、調理した場合は煮汁を含めて摂取しましょう。サプリメントで摂取するのも選択肢のひとつです。
なお、腎機能の低下している人は、カリウムの過剰摂取により血中濃度が高まる「高カリウム血症」のリスクがあります。腎臓病で治療中の方は、カリウムの摂取に関して主治医と相談しましょう。
病気が原因でないむくみは、ツボを押すことで緩和できる場合があります。ここではむくみに効くツボを3つ紹介します。
三陰交(さんいんこう)とは、3つの陰(脾臓、肝臓、腎臓)が交わる場所の意味です。
内くるぶしから指4本分上の位置にあり、胃腸の不調や冷えの改善など、幅広い効果があります。
特に生理痛や生理不順など、婦人科系の症状に効果があることから「女性のツボ」とも呼ばれます。三陰交は、生理痛や生理不順、血流促進冷えからくる胃腸への不調、更年期障害ののぼせなどにも効果があるとされています。
少し痛気持ちいい程度の力で3~5秒間、指の腹を使って優しく押し込みましょう。
ゆっくり息を吐きながら静かに押し、息を吸いながら離すのがコツです。
足三里(あしさんり)とは、三千里(12km)歩いても疲れないという意味です。膝のお皿の下部、外側のくぼみから約5cm下、すねの外側に位置します。ツボの王様とも呼ばれる足三里は、体の内側からエネルギーを高める作用があると考えられています。
また腹痛、頭痛、下痢、嘔吐など胃腸の不調や倦怠感、免疫力の向上、老廃物の排出促進、歯痛、歯槽膿漏などのほか、花粉症にも効果があるといわれています。
両手の親指を重ねて、強めに押しながら足首を外側と内側へ交互に回転させるようにマッサージしましょう。
湧泉(ゆうせん)は、文字どおり「生命力の泉が湧き出る」ツボです。「万能のツボ」とも呼ばれ、心身の疲れを緩和し、体の不調を改善すると考えられています。
足先から1/3ほどの、足の指を曲げた際凹む部分にあります。むくみの緩和のほかにも老廃物の排出促進、血行促進。冷えの改善、疲労回復、不眠改善など幅広い効果が期待できます。
「3~5秒押して3~5秒離す」を5~10回繰り返しましょう。
実は、私たちが普段履いている靴も、足のむくみに大きく影響します。ここでは足がむくみやすくなる靴の特徴について解説していきます。
むくまないためには、かかとを上げて、足指をしっかり使って地面を押し付ける歩き方をすることが大切です。この歩き方をすることでふくらはぎが動き、血液やリンパ液の循環を促進することができるからです。
その点きつい靴は足を締め付け、血液やリンパ液の循環を滞らせむくみを生じやすくなってしまいます。
緩い靴も、むくみの原因となり得ます。緩いと靴の中で足が滑ることがありますが、その際バランスを取ろうとして余計な力が入ってしまいます。すると、本来の正しい歩き方ができず血液やリンパ液の流れが滞り、むくんでしまうのです。
ヒールの高い靴も注意が必要です。
ヒールの高い靴では足首の動きが制限されるため、ふくらはぎも十分に動きません。結果的に血液やリンパ液の循環が悪くなり、むくみを生じやすくなってしまいます。
むくみは、体内に余分な水分が溜まる状態ですが、その原因は多岐にわたります。
主な原因としては、長時間同じ姿勢でいることや塩分の摂取過多、運動不足などが挙げられますが、日々の生活習慣の見直しによって予防や改善が可能です。
適度な運動を意識すること、飲酒を控えること、塩分を控え、カリウムが豊富な食材を積極的に摂取すること、身体を冷やさないようにすることなどが有効です。
また、マッサージやストレッチ、温かい湯船に浸かる、足を高くするなどの簡単な方法でもむくみの軽減効果が期待できます。
しかし、むくみが長期間改善しない場合は、重大な病気の可能性もあるため、医療機関を受診しましょう。むくみ予防と改善には、こうした対策をバランスよく取り入れ、自分の身体と向き合うことが大切です。
日々の小さな心がけで、より健康で快適な生活を目指しましょう。
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監修者:木村 眞樹子医師 |
東京女子医科大学医学部卒業後、循環器内科、内科、睡眠科として臨床に従事している。
妊娠、出産を経て、また産業医としても働くなかで予防医学への関心が高まった。 医療機関で患者の病気と向き合うだけでなく、医療に関わる前の人たちに情報を伝えることの重要性を感じ、Webメディアで発信も行っている。