熱中症とは、体温が上がり体の調節機能がうまく働かなくなったり、体内の水分と塩分のバランスが崩れたりすることなどが原因でおきる、めまいや立ち眩み、意識障害、手足のけいれんといった症状の総称です。屋内でも発症し、命にかかわるケースもあります。
熱中症は重症度によってⅠ度~Ⅲ度にわけられます。
Ⅰ度 ・・・ 現場での応急処置で対応可能なレベル
Ⅱ度 ・・・ 病院への搬送が必要なレベル
Ⅲ度 ・・・ 入院が必要なレベル
私たちの体には体温調節機能が備わっていて体内で熱が発生すると、体の表面から熱を放出したり汗をかいたりして体温を36℃前後に保っています。しかし、暑さや湿気などによりこの調節機能がうまく働かなくなることがあります。
体温調節機能が低下すると、体温がどんどん上昇し、体内の水分や塩分が失われていきます。次第に血流が悪化し、体表からの放熱や発汗ができなくなります。熱を逃がそうとして血管が拡張すると、脳への血流が減少し、めまいや立ちくらみ、一時的な失神(熱失神)がおこります。また、水分と塩分のバランスが崩れると、痛みをともなう筋肉のけいれん(熱けいれん)が発生します。これが熱中症の初期段階の症状です。
初期段階で適切に処置されないと、重要な臓器への血流不足や臓器温度の上昇により、頭痛などの全身症状(熱疲労)があらわれます。さらに進行すると、脳や心臓、肺、腎臓といった重要な臓器の機能障害がおき、意識障害をともなうこともあります(熱射病)。
熱中症では、めまいや立ちくらみといった軽い症状から、意識障害や全身のけいれんなどの重篤な症状まで、段階的にいくつかの症状が生じます。
ここでは熱中症でみられる症状や、重症度を見分けるチェックポイントについて紹介します。
人体には体温調整機能があり、身体の温度を一定の範囲内に維持するために、熱を作ったり逃がしたりしています。
熱により体温が上がると、体のなかにこもった熱を逃がすために血管が拡張します。
すると脳への血流が不足してめまいや立ちくらみ、一時的な失神がおきることがあります(熱失神)。
熱中症の初期症状として、筋肉が急激に収縮し激しい痛みをともなう「こむら返り」がおきることもあります(熱けいれん)。
筋肉が正常に伸縮するには、水分と塩分のバランスが重要です。
発汗によって水分と塩分が失われると、このバランスが崩れ、筋肉のけいれんがおきやすくなるのです。
こむら返りは、通常数秒から数分で治まります。
めまいやこむら返りはⅠ度に分類される、軽度の熱中症です。基本的には、水分や塩分摂取、体の冷却といった適切な対処をすれば回復します。
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熱中症の初期症状であるめまいやこむら返りなどが生じた状態で、適切な処置がなされないと脱水状態になることがあります。
すると脳や肝臓、消化管への血流が不足したり、それらの臓器の温度が上昇したりすることでさまざまな体調不良を招きます(熱疲労)。
たとえば脳の脱水状態や体温上昇などにより、頭痛が生じることがあります。熱中症による頭痛の痛みの程度は、ケースによって異なります。
脱水症状が進むと、胃や消火器系の機能に乱れが生じ、吐き気や嘔吐の症状があらわれることがあります。
初期の熱中症では、比較的軽い吐き気ですむケースが多いですが、症状が進むと吐き気は強くなり、嘔吐をともなうこともあります。
熱疲労はⅡ度の熱中症ですが、涼しい環境で休み、水分と塩分を補給すれば多くの場合治ります。
Ⅱ度の熱中症に対して適切な措置がとられず、体温が上昇し続けると、Ⅲ度の熱中症に進行し脳や心臓、肺、腎臓、肝臓などの重要な臓器の機能に障害をきたすことがあります(熱射病)。
Ⅲ度の熱中症になると、Ⅱ度の症状に加えてより重篤な症状があらわれます。
たとえば全身のけいれんです。
Ⅰ度のこむら返りは部分的にけいれんがおきるのに対し、Ⅲ度のけいれんは全身にガクガクとひきつけがおきるのが特徴です。
40度を超す高体温では、脳機能の障害により意識障害(応答が鈍い、言動おかしいなど)がみられる場合もあります。
Ⅲ度の熱中症は後遺症が残ることがあり、場合によっては命にかかわるため迅速な処置が不可欠です。
熱中症は重症化すると、取り返しのつかない事態になることもあります。
他方で、熱中症はしっかりと対策をすれば予防できます。ここでは熱中症の予防と対策について紹介します。
熱中症予防の基本は、水分補給です。
脱水症は熱中症のリスクを高めます。
熱中症では発汗により水分と一緒にミネラルも失われるため、水分だけではなくミネラルも適切に補給することが大切です。
厚生労働省の「熱中症診察ガイドライン」では、熱中症の予防・治療のための飲料として、経口補水液が推奨されています。ミネラルや水分を豊富に含んだ梅昆布茶や味噌汁なども熱中症の予防に有効です。熱中症予防の観点からはスポーツドリンクでも問題ありませんが、スポーツドリンクは糖分が多く含まれているため、飲み過ぎると糖分の過剰摂取になるおそれがあるため気をつけましょう。また熱中症を防止するためには、気温だけでなく、暑さ指数(WBGT)にも着目する必要があります。暑さ指数(WBGT)とは、気温と湿度、日射、輻射熱(遠赤外線などの熱線によって伝わる熱)を考慮した、熱中症の危険度を示す指標です。
暑い日は汗をかくので、屋内で安静にしていても水分は失われています。
人は軽度の脱水状態では喉の渇きを感じないため、喉が渇く前にこまめに水分補給をする習慣をつけることが大切です。
特に高齢者は若年者に比べて体内の水分量が少ないため、注意しなければなりません。
熱中症になってしまった場合の応急処置としても、水分補給は有効です。ただし意識障害が生じている場合に口から水分を補給させると気道に入り、誤嚥をおこす危険があります。また嘔吐や吐き気がある場合、胃腸が弱っている可能性があります。こうした場合には経口での補水ではなく、病院での点滴が必要です。
出典:熱中症診察ガイドライン2024|一般社団法人日本救急医学会
熱中症を予防するためには、暑さに負けない身体づくりも大切です。
睡眠不足は、熱中症リスクを高める可能性があります。
ある実験では4時間しか寝ていない日の翌日は、暑さに対する抵抗力が落ち、深部体温が上昇しました。
昼ではなく、夜にしっかりと睡眠を確保することが大切です。
実験では昼寝は眠気改善には効果があったものの、深部体温の上昇予防には効果はみられませんでした。
風通しのよい服装をする、屋外ではできるだけ日陰を選んで歩くなど、暑さを避けることも重要です。
特に子どもは大人と比較して体温調節機能が発達していないため、体に熱がこもりやすい傾向にあります。
また地面との距離が近く、照り返しの影響も受けやすいため大人よりも熱中症を発症しやすいと考えられています。
子どもは症状を正確に訴えられない場合があるため、発汗量や顔色などを親がよく観察して、20分に一度程度は涼しい場所で休憩させることが大切です。
暑い日は室内の温度も高くなるため、クーラーを効果的に使いましょう。
ただし、室温が24℃以下になると外気との気温差が大きくなり体の負担になります。28℃を目安に設定し、過ごしやすい室温を保つとよいでしょう。
休憩をこまめにとり、無理をしないようにしましょう。
特に高齢者は若者と比較して、体温調整機能が低く熱中症になりやすい傾向にあるため用心が必要です。
総務省発表の資料によると、令和6年(5月から9月)の全国における熱中症による救急搬送人員97,578人のうち、年齢別では高齢者(満65歳以上)の割合が最も多く、57.4%(55,966人)を占めています。暑さに慣れていない方や基礎疾患のある方も熱中症になりやすい傾向にあります。
屋内でも油断は禁物です。
同資料によると熱中症の発生場所は住居が最多で、38.0%(37,116人)に上ります。
出典:令和6年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況|総務省
熱中症を予防するため有効な対策の例として以下のようなものがあります。
・ 部屋の温度を下げる(目安は28℃)
・ 部屋の湿度を下げる
・ すだれやブラインドなどを活用し、窓からの日差しを遮断する
・ 休憩場所を設ける
・ 長時間の活動を避ける
・ 水分と塩分を摂取する
・ 暑さ指数(WBGT)に応じて活動を調整する
・ 帽子をかぶる
・ 暑熱順化させる
屋内での熱中症対策でまず必要なのは、部屋の温度を下げることです。
二酸化炭素削減などを目的に2005年に環境省の呼びかけによって始まったクールビズで推奨されている室温の目安は「28℃」です。ただしこれはエアコンの設定温度を「28℃」に設定するよう推奨しているものではなく、外気温や湿度、立地など体調などを考慮しながら、無理のない範囲で室温を下げるよう呼びかけているものです。
他方室温を下げすぎると外気温との差が大きくなり、身体に負担がかかる可能性があります。室温は24℃以下にならないよう注意しましょう。
また、室温とあわせて、部屋の湿度を下げることも重要です。湿度が高いと汗が蒸発しにくくなり、体温が下がりにくくなるため、熱中症のリスクが高まります。
梅雨時のように気温が低く湿度が高い場合は除湿機能を使うなどし除湿するようにしましょう
窓から入り込む日差しや照り返しは、すだれやブラインドなどで部屋の外側から遮断することが効果的です。
・ 水分と塩分をこまめに摂取する...大量の汗をかくと体内のミネラルも失われ、脱水や体調不良を引きおこすため、水分と塩分を十分に補給しましょう。一度に大量に飲むと排出されてしまうため、こまめに摂取することが重要です。
・ 休憩場所を設ける...活動場所の近くに涼しい休憩場所を設けましょう。横になれる広さを確保することがポイントです。
・ 長時間の活動を避ける...連続して長時間活動することは避けましょう。激しい運動をする場合は特に要注意です。
・ 帽子をかぶる...日差しが強い時期は通気性の良い帽子を着用し、直射日光を遮ることも有効です。
・ 暑さ指数(WBGT)に応じて活動を調整する...暑さ指数(WBGT)が高い時は活動時間を短くし、激しい運動を避けるなど、熱中症リスクにあわせて活動時間や活動量を調整することも重要です。暑さ指数は環境省庁の熱中症予防情報サイトで確認できるほか、熱中症指標計で測定することも可能です。
・ 暑熱順化させる...暑熱順化とは暑さに慣れることです。暑さに慣れていないと熱中症になるリスクが上がります。暑さに慣れれば早く汗が出るようになり、体温の上昇をおさえることで熱中症になるリスクを下げることができます。暑さに慣れるまでは、⼗分な休憩をとるようにしましょう。気温が上昇しはじめる6月ころの時期は体が熱に順化していないため、2週間ほどかけて徐々に⾝体を慣らすことが大切です。
こむら返りや立ちくらみなどⅠ度の熱中症の症状があらわれたら、まずは身体を冷やしましょう。首の前面と両脇の下、太ももの付け根を冷やすのがおススメです。
太い静脈が体の表面近くを通っているこれらの部位を冷やすことで、体内へ戻る静脈血の温度が下がり、体を効果的に冷却できます(三大局所冷却)。
塩分と水分を摂取し、ある程度安静にしていても症状が改善しない場合、内科の受診が必要です。
Ⅲ度の熱中症は危険な状態ですが、内臓の障害などは病院で検査をしないとわからないケースがあります。そのためⅡ度の症状がみられた場合、速やかに医療機関を受診するのが賢明です。
熱中症はしっかり対策をすれば防止できますが対策を怠ると重症化し、ケースによっては命にかかわります。
熱中症は症状が急激に悪化する場合があるため、なるべく早く対処することが肝心です。特に子どもや高齢者、体調不良の方などは熱中症になりやすいので注意しましょう。
普段から睡眠をしっかりとる、栄養バランスを考えた食事を心がける、汗をかく習慣をつけるなど、暑さに負けない身体づくりも大切です。
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監修者:五藤 良将医師 |
竹内内科小児科医院院長(東京都)
内科認定医、日本抗加齢医学会専門医、総合内科医(小児科・糖尿病内科・アレルギー科・老年内科・漢方診療対応)
防衛医科大学校を首席で卒業後、自衛隊関係病院などで臨床経験を積み、2019年竹内内科小児科医院院長に就任。2021年からは医療法人社団五良会理事長も務め、地域医療に貢献している。「患者さんに寄り添い、親しみやすく、融通のきく医療を提供すること」をモットーに、幼い頃から憧れてきた「赤ひげ先生」を理想とし、日々患者さんと向き合い続けている。