花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)とは、スギやヒノキ、ブタクサなどの花粉が原因で生じるアレルギー症状です。
1988年、2008年、2019年に実施された全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした鼻アレルギーの全国調査によると、花粉症の有病率は1998年が19.6%、2008年が29.8%、2019年には42.5%と年々増加しています。
特に多いのがスギ花粉症患者で、2019年には日本人の38.8%が発症しているとの推定がでています。現在国内では森林の約4割が人工林で、人工林の約4割がスギ人工林となっており、スギ林の多さがスギ花粉症患者の多い一因と考えられています。
関連記事:環境庁「花粉症環境保健 マニュアル」
関連記事:林野庁「スギ・ヒノキ林に関するデータ」
アレルギー性鼻炎はアレルギーの原因となる原因物質「アレルゲン」に抗体が反応しておこるアレルギー疾患です。
アレルギー性鼻炎は、特定の季節にだけおこる「季節性」と季節に関係なくおこる「通年性」にわけられ、花粉症は季節性アレルギー性鼻炎に該当します。
花粉症は花粉が原因で生じるのに対し、通年性アレルギー性鼻炎はダニや埃などが原因で生じます。
国内でこれまでにアレルギーが報告されている花粉は約50種類にのぼります。花粉症の原因として一般に多いのはスギ、ヒノキの花粉です。
季節性、通年性にかかわらずアレルギー性鼻炎ではおもに鼻水、鼻づまり、くしゃみの3つの症状があらわれます。
アレルギー性鼻炎と症状が似ている疾患としては風邪があります。
風邪では黄色く粘りっぽい鼻水が出るのに対し、アレルギー性鼻炎では透明でサラサラとした鼻水が出ます。
風邪のくしゃみは連続しませんが、アレルギー性鼻炎のくしゃみは発作的で連続します。
風邪は1日のなかで症状の強さに変化はみられないのに対し、アレルギー性鼻炎では朝方に強く症状が出る傾向にあります(モーニングアタック)。
風邪の症状は通常約10日で治まるのに対し、アレルギー性鼻炎の症状は2週間以上続きます。
花粉症では鼻の症状(くしゃみや鼻づまり、鼻水)だけでなく、目の症状(かゆみ、充血、なみだなど)を伴うケースが多く、ほかにも喉のイガイガや下痢、熱っぽさが生じることもあります。
花粉症はくしゃみ・鼻水が強い「くしゃみ・鼻漏型」と、鼻づまりが強い「鼻閉型」にわけられ、重症度は「1日に発生するくしゃみ発作の平均回数」「1日に鼻をかむ平均回数」「鼻づまりの程度」によって「軽症」「中等症」「重症」「最重症」にわけられます。
重症度の目安はおおむね以下のとおりです。
くしゃみ・鼻漏型 | 鼻閉型 | |
---|---|---|
軽症 | 1日に5回未満 | 口呼吸はないが鼻づまりがある |
中等症 | 1日に6~10回 | 鼻づまりが強く、口呼吸がときどきある |
重症 | 1日に11~20回 | 鼻づまりが非常に強く、口呼吸がかなりの時間ある |
最重症 | 1日に21回以上 | 1日中完全に鼻がつまっている |
※合わせてこちらもご参照ください
「【医師監修】花粉症の症状・原因|つらい鼻水・鼻詰まりの対処法
気管支や粘膜などには、マスト細胞(肥満細胞)と呼ばれる炎症や免疫反応などの防御機能に深く関係する細胞が存在します。
アレルギー反応にはIgE(免疫グロブリン)と呼ばれる抗体の役割をもつタンパク質が関係していると考えられています。
アレルゲンが体内に侵入すると、免疫反応により、IgE抗体が作られます。
ただしこの免疫反応は誰にでもおこるわけではなく、体質などによってIgE抗体が作られやすい人と、作られにくい人がいると考えられています。
アレルギー体質の方はIgE抗体が作られやすいといわれています。
抗体が作られた状態を「感作」と呼びます。
感作された段階ではまだ症状はあらわれません。
感作されると肥満細胞の表面に、IgEが付着した状態になります。
感作された人の体内に再び同じアレルゲンが体内に侵入し、マスト細胞上のIgEと結合すると免疫反応が生じ「ヒスタミン」や「ロイコトリエン」といったアレルギーの症状の原因となる物質が放出されます。
ヒスタミンがくしゃみ中枢を刺激することでくしゃみがおきたり、鼻腺に作用することで鼻水が出たりします。
またヒスタミンやロイコトリエンには鼻の粘膜の毛細血管を拡張させる働きがあり、これにより鼻づまりがおきやすくなると考えられています。
ヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が血管を拡張することで目の充血がおきたり、知覚神経を刺激することで目のかゆみがおきたりします。
また化学伝達物質が知覚神経の異常をおこし、涙腺神経を刺激することにより涙が出ます。
抗体が作られる元となったアレルゲンと、構造や形が似た別のアレルゲンが侵入してきたときにもアレルギー反応がおきることもあります。
この反応を「交差反応」と呼びます。花粉症の場合、果物や野菜で交差反応がおきることが多いです。
「花粉・食物アレルギー症候群(PFAS)」といい、果物や野菜を摂取した際に唇の腫れや口のなかのイガイガ感などがあらわれます。
症状は比較的軽く、多くの場合口のなかの症状にとどまりますが、ケースによってはアナフィラキシーショックなど重篤な症状をきたします。
花粉と交差反応性が証明されている果物・野菜には以下のようなものがあります。
花粉の種類 | 主な交差反応性のある果物・野菜 |
---|---|
ヒノキ科(スギ、ヒノキ) | トマト |
カバノキ科(ハンノキ、シラカンバ) | リンゴ、モモ、サクランボ、イチゴ、キウイなど |
イネ科(オオアワガエリ、カモガヤ) | メロン、スイカ、キウイ、オレンジなど |
キク科(ブタクサ) | メロン、スイカ、ズッキーニ、キュウリ、バナナなど |
キク科(ヨモギ) | セロリ、ニンジン、ピーナッツ、クリ、トマト、キウイ、香辛料(マスタード、コリアンダー、クミン)など |
花粉症を発症するかどうかは、内的因子や外的因子が関係していると考えられています。
内的因子の1つは、生活習慣の乱れと考えられています。
栄養バランスの偏りや不規則な生活、睡眠不足など不摂生をしていると、免疫系が正常に働かず発症リスクが高まる可能性があります。
遺伝的要素も考えられます。
乳児が生後 3~6 カ月にさらされる花粉の量が、その後の花粉症の発症リスクを大きく高めるひとつの要因であることが報告されています。
スギ花粉症については、有病率と両親のアレルギー歴との間に関連性があることを示唆する調査結果もあります。
大気中の汚染物質は花粉症を発症させる外的因子の1つだと考えられています。大気中の汚染物質は花粉症を悪化させる可能性があります。
花粉症の症状を引きおこすのは花粉そのものではなく、花粉が分離して発するアレルゲンです。
黄砂や工場排煙・自動車排気ガス、PM2.5といった大気中の汚染物質が花粉の分離を助け、アレルゲン物質が宙に拡散しやすくなった結果、花粉症の症状を悪化させると考えられています。
このような花粉に付着することでアレルギー症状を悪化させる物質を「アジュバント物質」と呼びます。
スギ花粉症患者が、地方よりもスギ林が少ない都会の方が多いのは、都会の空気には地方の空気よりアジュバント物質が多く含まれているためと考えられています。
ただしこれらはあくまでも仮説です。現在のところ、どのような人が花粉症になりやすいのかについて、ハッキリと証明されたものはありません。
花粉症の検査・治療方法にはどんなものがあるのでしょうか。
花粉症の検査は「血中IgE検査」「皮膚反応検査」「鼻粘膜誘発テスト」などが代表的です。
皮膚反応検査や鼻粘膜誘発テストはコストは抑えられる反面、花粉症の場合、シーズン中とシーズン外では反応が異なるため、診断率は低い傾向にあります。
検査名 | 内容 |
---|---|
血中IgE検査 | 指先から血液を少量採取し、体内にあるIgEの量を調べ、アレルギーの有無や程度を調べる検査です。 |
皮膚反応検査 | 皮膚の表面に直接アレルゲンを触れさせて反応があるか確認する検査です。 |
鼻粘膜誘発テスト | アレルゲンを染み込ませた紙を鼻の粘膜に貼って反応があるかを確認する検査です。 |
治療方法は大きく「薬物療法」「免疫療法」「手術療法」があります。
・薬物療法
花粉症の治療薬として代表的なのは「抗ヒスタミン薬」「抗ロイコトリエン薬」「鼻噴霧用ステロイド薬」などです。
花粉症は人によって症状が異なるため、使い分けます。
くしゃみや鼻水はヒスタミンが大きく関わっているため、くしゃみ・鼻漏型の花粉症ではおもに抗ヒスタミン薬を用います。
他方、鼻詰まりはおもにロイコトリエンの血管拡張作用によるため、ロイコトリエンを抑制することで鼻詰まりを改善できます。
そのため鼻閉型の花粉症では、抗ロイコトリエン薬や鼻噴霧用ステロイド薬を用います。
・免疫療法
アレルギーをおこす花粉に徐々に体を慣れさせ、免疫を獲得するもので、完治する可能性がある治療法です。
アレルゲンに対する感受性を低下させて症状を軽減することから、減感作療法とも呼ばれます。「舌下免疫療法」「皮下注射」などがあります。
・手術療法
アレルギー性鼻炎に対して薬物療法や免疫療法では効果を得られないなどの場合には、手術の選択肢もあります。
レーザー鼻腔粘膜焼灼術は、炭酸ガスレーザーで鼻腔の粘膜を収縮させることで花粉に対する反応を抑え、症状を改善する手術です。
レーザー鼻腔粘膜焼灼術でも改善が見込めない場合、最終手段として後鼻神経切断術があります。
後鼻神経切断術は、下甲介の奥側にある神経(後鼻神経)のうち数本を切断する手術で、くしゃみや鼻水に対して高い効果が期待されます。
では、花粉症になってしまった場合、どのように症状を抑えればよいのでしょうか。
花粉症との上手な付き合い方について解説します。
・北海道
北海道では本州に比べて花粉の量は少ないものの、シラカンバ(カバノキ科)の花粉が4月から6月にかけて飛散します。春にはハンノキやスギが、初夏にはイネ科の花粉も飛散することがあるでしょう。
・東北
東北は花粉が多いですが、特に注意が必要なのは、2月下旬から始まるスギ花粉や東北南部で4月にピークを迎えるヒノキ花粉、春から秋にかけて長期間飛散するイネ花粉です。ブタクサやヨモギ属、カナムグラの飛散量は少ないでしょう。
・関東
一年を通して花粉が飛散し、さまざまな種類の花粉が存在するのが関東地方です。春先にピークを迎えるスギやヒノキの花粉だけでなく、秋にはブタクサなどの草本植物の花粉も長期間飛散します。
・東海
一年を通してさまざまな花粉が飛散しています。特にスギ花粉が多い2月下旬から3月中旬や、3月下旬から4月にピークを迎えるヒノキには要注意です。
・近畿
1月からハンノキが飛散しはじめるため、注意が必要です。3月~4月にはスギやヒノキの飛散量が増えるので出かける際には対策をしましょう。飛散量は多くないものの、秋にはイネ科やブタクサ属やヨモギ属の花粉が、10月終わり頃まで飛散するでしょう。
・九州
九州でも、2月から4月にかけてスギやヒノキ科の花粉が多く飛散します。飛散量は少ないですがイネ科やブタクサ属、ヨモギ属、カナムグラが10月半ば頃まで飛散するでしょう。
・洗浄液を使って洗う
鼻や目のなかに入った花粉を、専用の洗浄液で取り除きましょう。
水道水で洗うのはNGです。水道水に含まれる塩素が鼻の粘膜や角膜を傷つけるおそれがあります。
涙は目を守っていますが、水道水は涙と浸透圧が異なります。そのため水道水で洗うと、涙も流れてしまうのです。
・目や鼻をいたわる
花粉症の時期は目に炎症がおこっていることもあります。長時間の目の酷使は避ける、コンタクトレンズの使用は控えるなど、目に負担をかけないよう心がけることが大事です。花粉症の症状があるときは鼻のなかが炎症をおこしている場合があるため、部屋を加湿し水分を補うのもよいでしょう。
花粉の飛散量が多い時期に外出する場合、マスクやメガネを着用し物理的に花粉をブロックするようにしましょう。
マスクやメガネ着用の仕方は以下のようなガイドラインが厚生労働省によって示されています。
マスクは、花粉の飛散の多いときには吸い込む花粉をおよそ3分の1から6分の1に減らし、鼻の症状を少なくさせる効果が期待されています。
メガネは花粉の飛散の多いときには、目に入る花粉を2分の1から3分の1まで減らすことができますが、眼の症状をどの程度弱くすることができるのかは明らかではありません。
花粉が付きにくい素材の服を選ぶことも重要です。たとえばポリエステルなどの化学繊維や綿やシルクなど表面がツルツルした素材は、花粉が付きにくい傾向にあります。
他方ウール素材やニットなど素材の表面に凹凸のあるものは花粉が付着しやすいため、避けましょう。
さらに帰宅後は衣服や髪をしっかりとはたき、花粉を落としてから入室するなど、居住空間に花粉を持ち込まないことも大切です。
花粉症は体内に侵入した花粉によって生じる免疫反応です。鼻詰まりや鼻水、目のかゆみといった花粉症の諸症状は、薬や手術などで改善できます。
薬や手術以外にも、対策を講じることである程度症状を抑えられます。
花粉を寄せ付けない工夫(外出時にはマスクやメガネを着用する、花粉が付着しやすい服は避けるなど)や目鼻のケア(洗浄液で目や鼻のなかの花粉を洗い流す、加湿するなど)をしましょう。
シーズン外から準備しておくことも重要です。
日頃から栄養を考えた食事や十分な睡眠を心がけるなど、生活習慣を正し、花粉症のシーズンに備えておきましょう。
![]() |
監修者:木村 眞樹子医師 |
東京女子医科大学医学部卒業後、循環器内科、内科、睡眠科として臨床に従事している。
妊娠、出産を経て、また産業医としても働くなかで予防医学への関心が高まった。 医療機関で患者の病気と向き合うだけでなく、医療に関わる前の人たちに情報を伝えることの重要性を感じ、 Webメディアで発信も行っている。