腰痛は大きく「急性腰痛」「慢性腰痛」「神経性腰痛」の3種類に分けられます。それぞれの違いは下記のとおりです。
種類 | 特徴 | 主な症状 | 典型的な原因例 |
---|---|---|---|
急性腰痛 | 突然発症する 数日~数週間で自然軽快する |
激しい腰の痛み 痛みによって動かすことが難しい |
重い物の持ち上げ、急な姿勢変化など |
慢性腰痛 | 痛みが3ヶ月以上続く | 鈍く持続する腰の重だるさ 立ち座りで悪化することがある |
加齢による椎間板や筋肉の変性 姿勢不良 |
神経が関連している腰痛 | 神経の圧迫・障害 下肢に症状が及ぶことも多い |
腰痛 脚のしびれ・痛み・感覚異常 歩行困難 |
椎間板ヘルニア(椎間板の突出による神経圧迫) 脊柱管狭窄症(加齢による靭帯の肥厚や椎間板の膨隆) 坐骨神経痛(神経根の圧迫や炎症)など |
腰痛の原因には、腰(脊柱)に異常があって起きるものがあります。ここでは、腰(脊柱)の異常が原因で起きる腰痛について解説します。
形成不全性すべり症は、生まれつき腰の部分で椎骨が正常な位置からずれた状態であるために脊柱管が狭く、脊柱管の中にある神経組織が圧迫されることで症状があらわれます。
長い距離を歩いたり、長時間立っていたりすると腰や足に痛みを感じます。
強い痛みがある場合は、適切な治療が必要になるため、医療機関を受診しましょう。
成長期の腰痛の原因として考えられるのは、過度のスポーツや腰をひねる運動などの負担によって、腰椎の後方部分が疲労骨折する腰椎分離症です。
腰椎分離症は、早期発見、早期治療によって改善が期待できます。放置すると、徐々に分離すべり症に進行していく場合があるため、痛みがある場合はなるべく早く医療機関を受診しましょう。
年齢を重ねると、脊椎骨の変形や椎間板の変性が生じて、脊椎の可動域制限や姿勢が悪くなることがあります。その結果、筋肉の緊張や筋肉疲労を原因とした腰痛のリスクが高まります。ほかにも、加齢にともなう骨強度の低下により、脊椎が脆弱性骨折している場合もあります。痛みがある場合は、放置せず医療機関を受診しましょう。
腰の筋肉や靭帯の挫傷、ねんざなどによって起こる腰痛が最も多いといわれています。腰の挫傷やねんざは、重たいものを持ち上げたり、運動時、転倒や自動車事故などで体が不自然な動きをした時に起こります。腰のけがは、悪い姿勢が原因になることもあるため、日ころから腰に負担をかけない姿勢を心がけることが大切です。
細菌が血液の流れに乗って背骨(脊椎)に運ばれ、感染を引き起こす化膿性脊椎炎で腰痛が起きる場合があります。原因菌はさまざまですが、黄色ブドウ球菌が半数以上を占めることがわかっています。症状が進むと下半身の麻痺や排尿障害などの症状がみられることもあるため、適切な治療をおこなうことが大切です。
腰痛があらわれる腫瘍の一つとして、脊髄腫瘍があります。脊髄腫瘍は背骨の中にある脊髄に生じる腫瘍です。良性と悪性(がん)があるため、診断を受けることが大切です。腰痛がなかなか治らなかったり、体のしびれが持続したりする場合は、早期発見・治療のために医療機関の受診を検討しましょう。
腰痛は、内臓の病気の症状として起きる場合があります。ここでは、腰以外の病気で起きる腰痛について解説します。
お腹に流れる大きな動脈にこぶができる腹部大動脈瘤やその動脈の壁が裂ける腹部大動脈解離などの病気では、腰痛が起きることがあります。
腹部大動脈瘤では自覚症状がないことが多いですが、こぶが破裂する前に腹痛や腰痛を感じる場合があるのです。
このような血管の病気は、命にかかわるため、激しい腰痛がある時は早急に救急病院を受診しましょう。
腎臓や尿管、膀胱や尿道などに石ができる尿路結石、膀胱に細菌が入って炎症が起こる膀胱炎、腎臓の中で尿が集まる腎盂に細菌が付着して炎症が起こる腎盂腎炎などの泌尿器系の病気は、主症状の1つが腰痛です。
腰痛に加えて、激しい排尿痛や血尿、吐き気や発熱がある場合は、早急な治療が必要なこともあるため、受診を検討しましょう。
女性の場合、卵巣が腫れる卵巣嚢腫や卵巣がねじれる卵巣捻転、子宮外妊娠などの病気が原因で激しい腰痛が起きる場合があります。
卵巣嚢腫に自覚症状はほとんどありませんが、卵巣捻転を起こすと激しい腰痛があらわれます。
婦人科系の病気は、命にかかわることもあるため、女性で激しい腰痛が起きた場合はなるべく早く受診するようにしましょう。
胃や十二指腸の粘膜に傷がついて発症する胃・十二指腸潰瘍、胆嚢や胆管に石ができる胆石、胆嚢に炎症が起こる胆嚢炎、膵臓に炎症が起こる膵炎などでは、腰痛が起きる場合があります。
消化器の病気の主な症状は、上腹部の痛みや吐き気・嘔吐などですが、痛みを感じる場所は必ず一致するとは限らず、腰が痛むように感じられることもあるのです。
強い痛みを感じる場合は、なるべく早く受診しましょう。
股関節の軟骨がすり減って痛みが生じる変形性股関節症で腰痛が起きる場合があります。
変形性股関節症の初期症状は、特に歩きはじめた時に痛みを感じやすく、少し歩いていると調子が良くなってくるという特徴があります。変形性股関節症は悪化すると筋力が落ちてくることがあるため、放置せず、初期症状がある場合は医療機関を受診しましょう。
仕事への不満や周囲のサポート不足、人間関係の問題や痛みへの不安・恐怖といった心理的ストレスが脳機能の不具合につながり、その結果、身体の不調の一つである腰痛が起こる場合があります。
緊急で病院に行く症状ではありませんが、リフレッシュをしたり、しっかり休養をとったりして、心理的ストレスを軽減させましょう。
つらい腰痛を緩和させるためには、適切な対応が必要です。ここでは、腰痛の対処法について解説します。
腰痛は多くの場合、自然に改善することもありますが、以下のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。
・痛みが2週間以上続く ...... 椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、腰椎すべり症、腰椎分離症などが疑われます。
・下肢のしびれがある ...... 神経の圧迫が生じている可能性があり、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの神経性疾患が考えられます。
・排尿・排便障害をともなう ...... 馬尾神経症候群の可能性があり、緊急手術を要するケースもあります。
・発熱や嘔吐をともなう ...... 感染性脊椎炎(化膿性脊椎炎)や腎盂腎炎などの内臓疾患が原因の腰痛が疑われます。
これらの症状がある場合は、市販薬などで様子を見ず、早めに整形外科や内科などのを受診しましょう。
腰痛の重症度は「信号機」に例えるとわかりやすく判断できます。症状ごとに適切な対応を心がけましょう。
・ 赤信号(要受診)
激しい痛み、発熱、下肢のしびれ・麻痺など
→すぐに医療機関を受診(神経疾患・感染症・内臓疾患の可能性)
・ 黄信号(注意観察)
2週間以上の痛み、夜間に痛む、徐々に悪化
→早めに整形外科を受診し、原因を特定
・ 青信号(経過観察可)
動作時のみ痛む、数日で軽快する軽度な症状
→安静・湿布・セルフケアで様子を見る。1週間以上続く場合は受診
症状の変化に応じて適切に判断しましょう。
軽度の腰痛には、市販薬を用いたセルフケアが効果的です。内服薬や外用薬には鎮痛・抗炎症作用がある成分が含まれており、症状に合わせて使い分けることが大切です。市販薬の主な種類と成分、注意点について詳しく見ていきましょう。
種類 | 主な成分 | 効果 | 使用上の注意点 |
---|---|---|---|
内服薬 | ロキソプロフェン、イブプロフェンなど | 痛みや炎症を内側から抑える | 胃への負担に注意 空腹時は避ける |
外用薬 | ジクロフェナク、インドメタシンなど | 局所の痛みや炎症を和らげる | かぶれに注意 傷口や湿疹部位には使わない |
選び方のポイント・注意事項は下記のとおりです。
・ 痛みの程度や部位に応じて、内服と外用を使い分ける
・ アレルギー歴や胃腸障害がある人は医師や薬剤師に相談する
・ 長期間の連用は避け、改善がみられない場合は医療機関へ相談する
疾患が原因で起こる腰痛は、原因疾患の治療が必要ですが、それ以外の日々の姿勢や生活習慣で起こる腰痛は予防が可能です。
腰痛のリスクを上げる要因には、身体的能力の低下があります。腰痛を予防するために、筋力やバランス能力など現在の自分の身体の状態を確認するようにしましょう。
また、長時間同じ姿勢で作業していると、腰痛を起こしやすくなってしまうため、日ころからストレッチをして腰痛の予防をすることが大切です。ストレッチは体調に合わせて無理のない範囲でおこないましょう。
腰痛予防には、骨盤を支えるお尻や骨盤と足をつなぐ股関節の筋肉を緩めるストレッチが効果的です。
① 両手・両ひざを床につく。
② 左足を後ろに伸ばし、右足はひざを外側にして曲げ、20~30秒キープ。足を入れ替えて同様におこなう。
① 左ひざをつき、右足を90度に立てる。
② 背筋を伸ばして上体を前にスライドさせ、ゆっくり戻す。5回繰り返し、足を入れ替えて同様におこなう。
腰痛を予防・改善するには、日常の姿勢や動作を見直すことが大切です。立つ・座る・寝るといった基本姿勢では、背筋を伸ばし、骨盤を立てる意識を持ちましょう。
物の持ち方:腰ではなく膝を曲げて持ち上げる
靴の履き方:椅子に座って無理なく履く
寝起きの仕方:横向きになり、手で支えながら起き上がる
また、以下のような動作・生活環境の工夫も効果的です。
項目 | 改善のポイント |
---|---|
椅子の高さ | 座ったときに膝が股関節よりやや高くなる高さに調整する |
マットレスの硬さ | 柔らかすぎず、体が沈み込みすぎない中程度の硬さ |
枕の使い方 | 首の自然なカーブを保つ高さと形状を選ぶ |
腰痛の原因は年代によって異なります。ライフステージに応じた対策をとることで、予防と早期改善につながります。以下に、年代別の主な原因と対策を紹介します。
年代 | 主な原因 | 対策 | 気をつけるポイント |
---|---|---|---|
20代 | 運動不足・長時間の座位 | ストレッチ・軽い運動・正しい姿勢を意識 | ・猫背や脚組みを避ける ・こまめに立って体を動かす ・習慣的にストレッチを取り入れる |
40代 | 仕事のストレス・筋力低下 | 体幹トレーニング・ストレスケア・正しい動作 | ・ストレスでの筋緊張に注意 ・重い物は膝を使って持ち上げる ・中腰・ねじり動作を減らす |
60代~ | 加齢にともなう骨・筋肉の衰え | 散歩・体操・転倒予防・定期的な健康チェック | ・無理のない運動を継続 ・段差や滑りやすい場所を避ける ・長時間同じ姿勢を取らない |
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監修者:眞鍋 憲正医師 |
UT Austin所属/日本体育協会スポーツドクター/日本医師会健康スポーツ医
信州大学医学部卒業 / 信州大学大学院疾患予防医科学専攻スポーツ医科学講座 博士課程修了 / UT Southwestern Medical Center, Internal Medicine, Visiting Senior Scholar / Institute for Exercise and Environmental Medicine, Visiting Senior Scholar / UT Austin, Faculty of Education and Kinesiology, Cardiovascular aging research lab, Visiting Scholar