ハウスダストとは家のなかのチリやホコリなどのうち、特に1mm以下の肉眼で確認できないものを指します。ハウスダストにはチリやホコリ、繊維くず、カビなどさまざまなものが含まれます。
私たちの身体には、免疫機能が備わっています。
異物であるハウスダストを吸い込むと、アレルギー反応により体調不良があらわれることがあります。ここではハウスダストが引き起こす主な疾患と症状について解説します。
気管支喘息とは、空気の通り道である気管支に慢性的な炎症が生じる疾患です。
炎症が生じた気道はさまざまな刺激に反応し、発作的な咳や、呼吸時にヒューヒュー、ゼーゼーといった音が鳴る喘鳴(ぜんめい)場合によっては呼吸困難などが生じることもあります。
アレルギー性鼻炎とは、花粉やハウスダストなどのアレルゲンに反応して起こる鼻の炎症です。2019年に全国の耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として実施された「鼻アレルギーの全国疫学調査」によると、国内では人口の49.2%がアレルギー性鼻炎にかかっていて、主にくしゃみ、鼻水、鼻づまり、目や鼻のかゆみなどの症状があらわれます。
アレルギー性鼻炎は喘息と同時に生じるケースが多いといわれていますが、詳しい原因はわかっていません。季節性のアレルギー性鼻炎(花粉症)と通年性のアレルギー性鼻炎があり、季節性のアレルギー性鼻炎(花粉症)は植物の花粉を吸い込むことによって、通年性のアレルギー鼻炎は室内のアレルゲンを吸い込むことによって起こります。
参考:「鼻アレルギーの全国疫学調査2019(1998年,2008年との比較): 速報 ―耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として」日本耳鼻咽喉科学会会報123巻6号
アレルギー性結膜炎とは、アレルギー反応により起きる結膜の炎症です。
主に目のかゆみや充血が生じます。
毎年同じ時期に症状があらわれる「季節性アレルギー性結膜炎」と年間を通して症状があらわれる「通年性アレルギー性結膜炎」があります。
花粉などを原因とする季節性アレルギー性結膜炎は、特定の季節に症状が強くあらわれるのに対し、ダニやホコリなど住環境を原因とする通年性アレルギー性結膜炎では、症状に季節性はみられず、慢性化しやすい特徴があります。
アトピー性皮膚炎とは、皮膚のバリア機能の低下などにより生じる皮膚の炎症です。
主な症状はかゆみを伴う皮膚の湿疹で、軽快と悪化を慢性的に繰り返す特徴があります。
子供の頃に発症するケースが多いですが、成人でも1~3%が罹患しているとされています。
皮膚のバリア機能が弱い人やアレルギー体質の人はなりやすいと考えられていますが、詳しいメカニズムはわかっていません。
ハウスダストには、多様なアレルギー物質が混在しています。ここでは、ハウスダストに含まれる原因物質(アレルギー物質)の一部について解説します。
カビというと、浴室など水回りに生えるイメージがあるかもしれません。しかしカビは湿度が60%を超えると繁殖しはじめると考えられていて、さまざまな場所から生えます。
たとえば、湿度が高くなりやすいクローゼットや押入れは、カビがよく生えます。
家具の裏も注意したいポイントです。家具を壁にくっつけて設置していると結露により、カビが生えやすくなります。
結露しやすい北向きの部屋や気密性の高い部屋では、壁や天井にもカビが生えやすくなります。そのほか、窓やカーテンなど結露になりやすい場所もカビが生えがちなので注意しましょう。
繊維くずはほかのアレルゲンと絡まりあって、綿ボコリとなり宙を舞います。
特に繊維くずが溜まりやすいのはベッドや布団、枕などがある寝室や洋服を収納するクローゼット、衣装ケースなどです。
繊維くずはダニの繁殖場所にもなります。
ハウスダストにはさまざまなアレルゲンが含まれますが、なかでもアレルギーの原因になりやすいといわれているのがダニです。
ダニは温度25~30 ℃、湿度60~70%で活発になるといわれ、温かくじめじめした寝室布団やカーペットや絨毯、畳などに発生することが多いです。
またダニの死骸やダニのフンもアレルギーの原因になります。
家のなかに持ち込んだ花粉(スギ・ヒノキ・カモガヤ・ブタクサなど)がアレルギーの原因となることも少なくありません。
花粉が飛散する量は、前日や当日の気象状況に左右されます。「気温が高い日」「雨が降った翌日で晴天の日」「風が強く乾燥している日」には飛散量が増えるといわれています。
食べカスは、カビを繁殖させるハウスダストです。
ダニの栄養源にもなります。
特に煮干しやかつお節など、うまみ成分(アミノ酸)を多く含んだ食品にはダニが発生しやすいといわれています。
なかでも「コナダニ」は、野菜粉末や果物粉末といった、それほど多くの栄養を含んでいない粉末食品でも繁殖します。十分な注意が必要です。
人間の毛髪やフケ、皮膚片は、ダニの餌となります。人が動く範囲であれば、どこでも溜まりますが、特に多いのは滞在時間が長くなりがちなリビングルームや寝室などです。
ペットの毛やフケも、アレルギーを引き起こす原因となります。犬や猫はもちろん、近年飼育されることの多いハムスターやウサギなどの小動物の体毛やフケなどを吸い込むと、アレルギー症状があらわれることがあります。ダニが繁殖する原因にもなります。
ハウスダストは家のなかのあらゆる場所に存在します。よく目につくのは床や背の低い家具の上などですが、背の高い家具の上や天井、照明器具などにもハウスダストはたくさんあるものです。特に家具の裏や天井、照明器具の上は掃除がしにくい場所なだけに知らない間にハウスダストが溜まってしまいがちです。時々はチェックしましょう。
ハウスダストは年中身の回りに存在し、季節を問わずアレルギー症状を引き起こします。しかし適切な対策をとれば、ハウスダストによる症状を緩和することが可能です。ここではすぐにできるハウスダスト対策について解説します。
ハウスダスト対策の基本は、掃除です。特に、ダニのエサになる髪の毛や食べかすなどは長期間放置しないようにしましょう。
掃除のポイントは以下のとおりです。
・ 朝一番に床掃除を
ハウスダストは軽く、動きや風で舞い上がります。朝一番に鼻水やくしゃみなどの鼻炎症状が悪化する現象を「モーニングアタック」と呼びますが、これは夜間に床にたまったハウスダストが、朝、人が動き出すと同時に舞い上げるために起きる現象です。そのため効果的にハウスダストを除去するには、朝起きてすぐに床掃除をすることが重要というわけです。
・ 高い所から低い所へ
ハウスダストは、上から下に落ちていくため、高い所から順に掃除することも大切です。箒などでパタパタとはたくとハウスダストが舞ってしまうため、吸着モップなどを使って静かに拭き取りましょう。
・ 掃除機は最後
ハウスダストを舞い上げてしまうため、掃除機は最後に使用するのがおすすめです。
布団や絨毯など、洗濯できるものは洗濯し、ダニの死骸や食べカスなどを洗い流すことも有効です。
ただし、普通に洗うだけではハウスダスト対策としては、十分とはいえません。
ダニは足先についた吸盤のような器官で繊維にしがみついているため、通常の洗濯では、生きたダニは完全には除去できないのです。
ハウスダストの原因物質としてのダニ対策には「熱」が効率的です。
ダニは熱に弱く、50℃以上の熱に20分以上さらされると死ぬといわれています。
・熱湯を使って洗濯する
・洗濯機の乾燥機能を使う
・布団乾燥機やアイロンを使う
など、熱を使って対策するとよいでしょう。
定期的に換気して、空気を入れ替えることも大切です。換気により室内に溜まったハウスダストを外へ排出でき、室内の湿度を下げる効果も期待できます。ポイントは空気を循環しやすくすることです。
・2カ所以上の窓を開ける
・換気扇を回す
など、空気の通り道をつくるよう意識しましょう。
食ベカスなどを放置していると、ダニが繁殖する原因になります。
定期的に冷蔵庫やキッチンの清掃をおこない、清潔をキープすることも大切です。
特に、小麦粉やホットケーキミックスなどの粉類には「コナダニ」が発生しやすいです。早めに使い切り、開封後はすぐに密閉容器に移し替えましょう。
またダニは低温環境では繁殖しにくいため、湿気が高い梅雨の時期などは冷蔵庫で保存するのがおすすめです。
空気清浄機を使って、空気中に漂ったハウスダストを除去する方法も有効です。なかでも「HEPAフィルター」を搭載した機種であれば、より高い効率が得られるでしょう。HEPAフィルターは、0.3μm以上の粒子を99.97%以上キャッチできる、微粒子エアフィルターです。
加湿機能付きのタイプは、室内のハウスダストが舞い上がるのをおさえる効果も期待できます。
ハウスダストによるアレルギー症状は、市販の薬で改善できる場合があります。
たとえば、アレルギー性鼻炎のくしゃみや鼻づまりには鼻炎薬などが、アトピー性皮膚炎のかゆみや皮膚の炎症には鎮痒消炎剤などが有効です。
アレルギー専用の鼻炎薬などもあるので、薬剤師や医師に相談しながら、薬を服用するとよいでしょう。
ハウスダストは、年間を通してさまざまな体調不良を引き起こす、厄介な存在です。一方でキチンと対策を講じれば、ある程度ハウスダストによる症状を予防できます。ハウスダストを完全に取り除くことは難しいですが、定期的に屋内のホコリを掃除する、こまめに換気する、ダニの繁殖に気をつけるなど、日頃からハウスダストを意識した生活を送ることが重要です。
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監修者:伊藤 幹彦医師 |
内科・皮膚科医(日本外科学会認定外科専門医、日本循環器学会認定循環器専門医、日本医師会認定産業医)
東京医科大学八王子医療センターなどで心臓血管外科として勤務後、東京警察病院外科医長に。2010年に伊藤メディカルクリニックを開業し、心臓血管外科を専門とし、高血圧や糖尿病、AGAなど幅広く対応している。「みなさまの健康を生涯にわたってお守りするよきパートナーとして、わかりやすく、丁寧な診察に努める」がモットー。