歯の構造は歯冠と歯根に分けられ、歯冠部はエナメル質に覆われ、その内側に「象牙質」があり、さらにそのなかに「歯髄」があります。
歯髄は「歯の神経」と呼ばれ、さまざまな神経や血管が通っています。
歯髄には、神経はあるものの温度感覚がなく「冷たい」「熱い」といった刺激も痛みとして感じます。
歯を支えている骨と歯の間には、厚さ0.3mほどの「歯根膜」と呼ばれる繊維があり、クッションのような働きをしながら歯と骨をつないでいます。
歯根膜には、ものを食べるときの「歯ごたえ」や「硬さ」といった感覚を感知し、脳に伝えるセンサーの役割もあります。
実はエナメル質には神経がないのをご存じでしょうか。そのため虫歯になっても進行がエナメル質にとどまっているうちは痛みを感じません。
痛みを感じるのは主に象牙質や歯髄、歯根膜、歯茎です。
神経が通っているこれらの組織が感染したり傷ついたりすると、その刺激が脊髄を通じて脳に伝わり痛みを感じるわけです。
歯は大きく、歯茎から口のなかに露出している頭の部分の「歯冠」と歯茎のなかに埋まっている根っこの部分の「歯根」に分けられます。
歯冠を覆うのがエナメル質です。
エナメル質は外部から歯を守っています。
人体で最も硬い組織で、表面が多少溶けても(脱灰)唾液の力で修復できます(再石灰化)。
歯冠は主に、食べ物を小さくかみ砕く役割を担っています。
そして、食べ物をかみ砕く際に歯にかかる力を歯根が支えています。
歯茎の下には「歯槽骨(しそうこつ)」と呼ばれる骨があり、顎の骨と歯をつないでいます。
歯冠と歯根の境目付近を「歯頚部(しけいぶ)」歯の根っこの先の部分を「根尖(こんせん)」と呼びます。
根尖には「根尖孔(こんせんこう)」と呼ばれる穴があり、神経や血管が通っています。
まずは歯の痛みのうち、歯に問題があるものについて解説していきます。歯に問題がある痛みは、虫歯や根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)、知覚過敏などです。
・虫歯
虫歯は進行度合いによって、症状が変わっていきます。無症状の初期段階から、冷たい刺激に敏感な段階、激しい痛みが生じる段階といった具合に進行していきます。
虫歯の主な原因は、ミュータンス菌などの虫歯菌が糖を分解することで作られる酸によるものです。
虫歯菌の進行がエナメル質にとどまっている初期段階では、自覚症状はありません。
エナメル質が溶けだし、象牙質まで進行すると、冷たいものが染みる、甘いものが染みるなどの症状があらわれます。ここまでなら虫歯を取り除くことで神経を取り除かない治療が可能です。
さらに進行し、歯髄まで刺激が伝わると「急性化膿性歯髄炎」になり、なにもしなくてもズキズキと鋭痛を感じるようになります。また歯髄炎は痛みに波があるケースも多く、夜間などリラックスしたときに痛みが増幅します。これは副交感神経が優位になり、血行が促進した結果、神経が圧迫されるためです。
ここまで進行した場合は神経を取り除く治療が必要です。
さらに歯髄炎を治療せず放置した場合、歯髄が壊死することもあるので注意しなければなりません。
・根尖性歯周炎
歯髄炎がさらに進み、根尖の周囲にある歯周組織にまで浸食された状態が「根尖性歯周炎」です。
根尖性歯周炎の初期段階では、歯が浮くような痛みや、噛んだときの痛みなどが生じます。
進行すると歯髄が壊死し、痛みを感じなくなります。歯茎が赤や黄色に腫れたり膿が出て穴があいたりすることもあります。
根尖性歯周炎にまで進行すると、神経の管をきれいにして膿を取り除く治療が必要です。
・知覚過敏
知覚過敏とは、虫歯や歯髄炎など歯の疾患がないにもかかわらず、歯ブラシや冷たいものなどによって、歯に一過性の痛みが生じる症状です。
正式には「象牙質知覚過敏症」といいます。
知覚過敏は虫歯と似た症状があらわれますが、違いのひとつが、痛みの継続時間です。
虫歯の痛みは持続的であるのに対して知覚過敏の痛みは一時的で、軽度の痛みが2~3秒、長い場合でも一分程度で消えるといわれています。
初期の知覚過敏は、歯みがきなどのセルフケアで症状が治まることもあります。
しかし放置していると重症化します。重症化した場合、激しい痛みがより長く続きます。
知覚過敏の原因は、加齢や誤った方法でのブラッシング、歯ぎしりや食いしばりなどにより、歯茎が下がり、エナメル質の内側にある象牙質が露出することです。
一般的に象牙質は歯茎に覆われていて、外部刺激を受けても痛みなどの症状はあらわれません。ところが歯茎が下がると象牙質が露出し、刺激が神経に伝わり、痛みを感じることがあるのです。
歯が痛いとき、その原因が歯にあるとは限りません。痛みの原因が、歯茎にある場合もあります。歯茎に問題がある歯の痛みは親知らずの周りの炎症や歯周病、歯根膜炎などです。
・親知らず
親知らずとは、前歯から数えて8番目の奥歯のことです。
親知らずは10歳ころに顎の骨のなかで形成され、20歳頃に口内に露出してきます。
親知らずというと抜いた方がいいというイメージがあるかもしれませんが、親知らずが正常に生えていて、なおかつ機能している場合などは抜かないケースもあります。
ただ一般的に親知らずは顎の骨に埋まったまま出てこなかったり、傾いて生えてきたりするケースが多いです。
虫歯ではない場合、親知らずそのものが痛むことは基本的にありません。親知らずが原因となる痛みは主に「萌出(歯が生えてくること)時の痛み」と「周囲の歯を圧迫することによる痛み」と「親知らずの周りの歯肉が炎症を起こすことによる痛み」です。
歯が頭を出す瞬間には歯茎を突き破るため、歯茎がジンジンと痛みます。
親知らずが露出してからは、周囲の歯を圧迫し、痛みや違和感が生じることがあります。
また親知らずは奥のほうに生えてくるため、歯みがきなどのメンテナンスがしにくく、しっかり磨いているつもりでも、歯垢や食べかすが残りがちです。
そのため、親知らずやその手前の歯は虫歯になりやすく、また歯肉が炎症を起こしやすいといわれています。
・歯周病
歯周病は、細菌の感染によって炎症が起こる病気です。歯と歯茎の間の溝(歯周ポケット)に細菌が入り込み、歯茎が赤く腫れたり、歯を支える骨が溶け、歯が抜け落ちたりします。
歯周病は歯の周りの骨が溶けていないか、骨が溶けているかによって「歯肉炎」と「歯周炎」と分類します。
歯肉炎は炎症が歯肉にとどまっている状態で、赤く腫れて出血しやすくなります。
ブラッシングなどの適切なケアをすれば、通常10日で症状は改善しますが、初期段階の歯肉炎では痛みなどの自覚症状がほとんどなく、気づかないことも多いです。
ケアをせずに放置すると炎症が歯根膜や歯槽骨などに進み、歯周炎になります。
歯周炎になると歯の周りの骨が溶け、歯がぐらつきだし、最終的には歯が抜け落ちます。
・歯根膜炎
歯根膜炎は、歯の根の周りを覆う歯根膜に生じる炎症です。噛むと痛みを感じる、歯が浮いたような感覚がする、歯茎が腫れるといった症状があらわれます。
歯根膜炎には、細菌を原因とする「感染性歯根膜炎」と物理的刺激を原因とする「非感染性歯根膜炎」があります。
感染性歯根膜炎は、虫歯菌や歯周病菌などに感染することで生じます。
一方の非感染性歯根膜炎は、歯ぎしりや食いしばりなどの力が歯根膜に加わることによって生じます。
感染性歯根膜炎は、細菌が歯根膜に感染した状態ですが、さらに感染が進み、炎症が歯の根っこ部分まで広がると、前述の根尖性歯周炎になります。
歯が痛いと、やるべきことに集中できなくなってしまうこともあるかもしれません。では、歯に痛みがある場合、どうすればよいのでしょうか。ここでは今すぐできる歯の痛みの対処法を紹介します。
歯周炎や歯髄炎など、急性炎症の痛みは冷やすことが有効な場合があります。
炎症が起きると血行が促進され、神経が圧迫されることで痛みが発生します。
冷却することで血管が収縮し、炎症による腫れが和らぎ、神経の圧迫も緩和されることで痛みが減少するのです。
痛む場所を冷やすのではなく、頬を冷やすのがポイントです。
水で濡らしたタオルなどを頬にあて、間接的に冷やしましょう。
ただ、虫歯や知覚過敏のうち冷たいもので痛みが悪化する場合などは、冷却すると逆効果になるおそれがあるため要注意です。
歯科で処方された鎮痛剤がある場合、服用しましょう。一時的な痛みの緩和が期待できます。
処方薬がない場合、市販薬でも問題ありません。
ドラッグストアなどでも手に入りやすいのは、「解熱鎮痛剤」や「消炎鎮痛剤」などの表記があるものです。
解熱鎮痛剤は、熱を下げる作用と痛みを和らげる作用をもつ薬です。生理痛や頭痛など、幅広い痛みに効果を発揮します。
鎮痛消炎剤は炎症部位に働きかける薬で、痛みを和らげる作用ももちます。筋肉痛、関節痛、腰痛など、炎症性の痛みにも効果があります。
どちらでも歯の痛みの改善効果が期待できますが、効能に「歯痛」とあるかどうかを確認してください。大多数の鎮痛剤が歯痛への適応がありますが、まれに適応しないものがあります。
虫歯などの痛みに対しては、有効成分に「NSAIDs」が含まれるものが効果的です。
NSAIDは体内で炎症や痛み、熱などを引き起こす「プロスタグランジン」の生成を抑制することで痛みを緩和してくれます。
歯周病などの歯茎の炎症による痛みには、ロキソプロフェンやイブプロフェンが配合されているものがおすすめです。炎症を鎮め、痛みを和らげてくれます。
鎮痛剤を服用する場合、ほかの鎮痛剤との併用はできないため注意が必要です。
鎮痛剤以外にも併用禁忌の薬があるので、事前に確認しましょう。
虫歯が痛む場合、正露丸を使う方法もあります。
大きな穴が開いているような進行した虫歯で、ひどく痛むような場合には、正露丸を押し込んでみましょう。痛みの緩和が期待できます。
正露丸の主成分である木(もく)クレオソートは防腐作用や殺菌作用をもち、歯科でも痛みを抑えるために使用されることがあります。
ただし正露丸の説明書にもあるように、正露丸の虫歯に対する効果は一時的な鎮痛作用のみで、虫歯を治療できるわけではありません。なるべく早く歯科医院へ行って治療を受けることが大切です。
ツボを刺激することで、痛みが緩和する場合もあります。歯痛に効果があるツボを紹介します。
・合谷(ごうこく)
合谷は、手の甲の親指の付け根と、人差し指の付け根の骨の付け根のやや人差し指側にあります。少し強めの力で、人差し指側へ向かって何度も押したり揉んだりしましょう。つねったり爪楊枝でつついたりするのも効果的です。
・歯痛点(しつうてん)
歯痛点は、2箇所あります。ひとつは手のひらの薬指と中指の付け根の間、もうひとつは足の裏の親指と人差し指の間から指2本分下です。合谷と同じように強めに何度も押しましょう。
・太谿(たいけい)
太谿は、アキレス腱と内くるぶしの間の凹んだ箇所にあります。
・下関(げかん)
下関は、耳の付け根から指3本分前方辺りにある骨の窪みにあります。
ポイントは、「痛気持ちいい」くらいの力加減を意識することです。
今回ご紹介した原因以外にも、歯が痛む原因には、顎の筋肉の炎症やストレスなど様々なものがあります。また歯周病は気づかない間に進行しますが、脳、心臓血管系の疾患など重篤な疾患との関連性も認められています。
歯の痛みは原因によって有効な対処法が異なりますが、痛みの原因を一般の方が判別するのは容易ではありません。なるべく早めに医師に相談し、適切な処置を受けることが大切です。
![]() |
監修者:鈴木 丈夫先生 |
たけお歯科院長/UCLAインプラントアソシエーション理事/日本医学交流協会副会長/歯学博士
日本大学松戸歯学部卒業後、歯科医院勤務、アメリカ留学等を経て2013年たけお歯科開業。しっかりとしたカウンセリングを行い、患者さん一人ひとりの要望に合わせた治療、予防を提供していくことを大切にしている。