「不快害虫」とは、ムカデやクモ、ダンゴムシなど、見た目や動きなどで人間に不快感を与える虫の総称です。直接的な害をもたらさない不快害虫もいる一方で、直接的な害をもたらす不快害虫もいます。
不快害虫による被害の代表例が「食害」です。シロアリなどにより、家具や建材が食べられるケースはよく知られています。
健康被害を引き起こす不快害虫もおり、ムカデやハチに刺されると強い痛みや腫れが生じ、重症の場合、命にかかわるアナフィラキシーショックを起こすことさえあります。
ゴキブリも健康被害を引き起こす不快害虫の代表例です。食中毒の原因となるサルモネラ菌や寄生虫を運ぶため、胃腸炎や下痢のリスクを高めるほか、アレルギー症状の原因となることもあります。
同様に、アレルギー症状を引き起こす不快害虫としては、ナメクジやユスリカなどがあります。
前述のさまざまな不快害虫が引き起こす、アレルギー症状についてもう少し詳しく見ていきましょう。
・ 室内でアレルギーを引きこす不快害虫
アレルギー性鼻炎や喘息、皮膚炎の原因になる代表例はダニです。ダニの死骸やフンがアレルゲン(アレルギーの原因物質)となります。
ゴキブリも死骸やフンが、喘息やアレルギーを引き起こすことが確認されています。
ユスリカも、呼吸器系の疾患(ユスリカ喘息)やアレルギー性鼻炎、結膜炎の原因となることもあります。
こうした不快害虫に対しては、こまめな掃除で室内の清潔を保ったり湿度が上がりすぎないよう温度・湿度管理したりすることが大切です。不快害虫が好む環境をできるだけ作らないことが、第一の対策となります。
・ ハチによるアレルギー症状
ハチ刺されると、最悪の場合死に至ることがあるのは昔から知られています。これもハチ毒によって死亡するわけではなく、ハチ毒に対するアレルギー反応が原因です。
はじめてハチに刺されると、体内にハチ毒が入り、免疫反応によって「特異的IgE抗体」が作られます(感作)。はじめて刺された人のうち約2割に、感作が起こるといわれています。
はじめてハチに刺された場合は、腫れや痛みなどの症状が生じ、かゆみをともなうこともありますが、通常は数日で回復します。
感作された人が再び刺されると、全身のじんましん、嘔吐、呼吸困難などを起こすアナフィラキシーに陥ることがあります。症状がひどい場合は意識障害、急激な血圧低下などのショック状態が起こり、最悪の場合死に至るのです。
また同時に多数のハチに刺された場合、抗体の有無にかかわらず、アナフィラキシー反応を起こすことがあります。
ただしすべてのハチが刺すわけではありません。
人を刺すのは主にミツバチとアシナガバチ、スズメバチです。
・ ハチに刺された場合の対処法
ハチに刺された場合、針が残っていれば除去し、傷口を流水で洗い毒を出します。
口で毒を吸い出そうとする人がいますが、毒が体内に入るリスクがあるのでやめましょう。
患部の炎症には、市販のステロイド外用剤を塗るとよいでしょう。
ステロイド外用剤は、炎症を抑える抗炎症作用があり、赤みやかゆみなどの症状を改善できます。薬が手元にない場合、患部を冷水などで冷やすのも有効です。アナフィラキシーショックが起きたときはエピペンを使用するのが適切ですが、エピペンが手元にない場合は、救急搬送しましょう。
次に、不快害虫による「食害」について見ていきましょう。
・ 食害の代表シロアリ
日本で食害の被害が多いのは、シロアリ類やキクイムシ類によるものです。
木材や紙など、セルロースを豊富に含むものを主食とするシロアリは、家屋の木材や紙類を内部から食い進みます。
家屋の木材の食害は外観からは気づきにくく、発見が遅れると建物の強度が大きく低下します。
木材だけでなく、ケーブル、電線、繊維、皮革なども食べるヤマトシロアリなどもいます。
・ ナメクジも食害を起こす
植物への食害もあります。たとえばナメクジは野菜や花の葉や芽を食べ荒らします。
さらに、食べ荒らした野菜などにナメクジの唾液が付着するとアレルギーの原因になることもあります。ナメクジは広東住血線虫(かんとんじゅうけつせんちゅう)の宿主となり、粘液を通じて人間が感染すると、髄膜脳炎を起こすのです。
こうした事態を避けるためにも、野菜や果物はよく洗い、ゴミや汚れを洗い流すことが大切です。
・ 「臭い」の害虫・カメムシ
臭いによる被害も看過できません。カメムシなどは、危険を感じたり刺激を与えられたりすると、強烈な悪臭を放ちます。この悪臭の原因はアルデヒド類などの化学物質で、洗濯物や家具に臭いが付いたり、室内に臭いが充満したりする可能性もあります。
「不快害虫」はその名のとおり、心理的な不快感を引き起こします。
特に都市部では昔と比べて、虫に苦手意識を持つ人が増加しているといわれています。これは、都市化によって、虫を見る場所が室内に移ったことや、虫の種類を区別できなくなったことに起因します。
また虫が苦手な人は、男性より女性に多いとの研究結果もあります。
家庭内での不快害虫の発生要因は、食べカス、湿気、ペットの毛やほこりなどです。
たとえばゴキブリは雑食であり、食べカスや、パンくずなどを片付けずにいると発生します。
さらに、ゴキブリやダニをはじめとする不快害虫の多くは湿度の高い環境を好みます。
台所のシンク下、植木鉢や家具の下、押入れやクローゼットなどの風通しの悪い場所などが、不快害虫の温床となります。
住宅で注意が必要な場所は、網戸の破れや玄関・窓のすき間、換気扇や通気口、エアコンのダクトなどです。ムカデや蚊やアリ、クモなどが室内に入り込みます。
こうしたすき間からの侵入を防ぐには、防虫剤のほか、すき間を物理的に埋めることが有効です。
ベランダや勝手口などからハチ、アリ、カメムシといった虫が家の中へと入り込んでくることも珍しくありません。また夜間の屋外照明に虫が集まり、そこから玄関を通じてユスリカや蛾などが侵入することもあります。
こうした虫に対しては、防虫ネットなどで、侵入を防ぐとよいでしょう。
キッチンやシンクの下、排水溝も注意が必要な場所です。料理の際や食事後に出る油汚れは栄養を豊富に含むため、チョウバエ、コバエ、ゴキブリなどが発生しやすいのです。
定期的に掃除をする、油や食べ残しなどを排水溝に流さない、ホウ酸団子などの殺虫成分を含んだエサを設置するなどの対策を取りましょう。
不快害虫を効率的に駆除するには、まずは害虫が発生している場所や程度、虫の種類を把握しましょう。
害虫の発生が確認できたら、駆除が必要な範囲をしっかりと見定めます。駆除の範囲が広い場合は、作業が膨大になることもあるため、事前にどこまで対策するかを決めておきましょう。また害虫の種類によって適切な駆除方法が異なるため、必要な道具やトラップを事前に調べ計画的に駆除を進めていくのがポイントです。
不快害虫の駆除には、殺虫スプレーや粘着トラップ、捕獲器といった基本的な道具が必要です。また自身の安全のために手袋やマスク、ゴーグルなども準備しておくとよいでしょう。
必要に応じて毒餌剤や専用殺虫剤、粘着シートなど特定の害虫対策用具も準備しておきましょう。
不快害虫の代表例ゴキブリの場合、繁殖力が非常に高いため、念入りに駆除することが重要です。
燻煙剤や、毒エサや粘着シート、市販のスプレー殺虫剤を使って、巣まで徹底的に対策しましょう。
家屋に甚大な被害をもたらすシロアリの駆除には、専門的な知識と技術が必要です。素人による中途半端な駆除は被害を拡大させるリスクが高いため、基本的に専門業者へ依頼することをおすすめします。
ハチは巣の撤去が必要ですが、種類によっては駆除に危険がともないます。スズメバチなどは攻撃性が高いため、専門業者に相談するのが賢明でしょう。
ダニの駆除には乾燥が大切です。室内にできるだけ湿気をためないよう、定期的に部屋やクローゼット、物置の換気をする、換気扇を設置するなどをおこないましょう。また、布団やじゅうたんはこまめに掃除し、死骸やフンを取り除くといった対策が必要です。
ムカデ、ヤスデなどのそのほかの害虫は、遭遇したら殺虫剤で対応しつつ、侵入経路を探して隙間を封鎖するなどの対策を取っていきましょう。
ただ、虫の種類がわからないケースもあるでしょう。その場合、「不快害虫用」の虫ケア用品で対策できます。「不快害虫用」の虫ケア用品はさまざまな種類の害虫への効果が期待できます。
不快害虫を寄せ付けないためには、まず清潔な環境を保つことが基本です。食べこぼしやゴミはすぐに片付け、定期的に掃除機をかけ、餌となるものを除去しましょう。
キッチンや浴室などの水回りは特に注意が必要です。排水溝の掃除を定期的におこない、湿気対策として換気を心がけましょう。
窓やドアの隙間からの侵入を防ぐために、網戸の破れを修理し、気密性を高めることも効果的です。
前述のように、住宅の防虫対策の基本は、不快害虫の侵入経路を防ぐことと、こまめな掃除です。新築の場合でも、入居時に運び入れる家具や布団、段ボールなどにダニやゴキブリが付着し、持ち込んでしまう可能性があります。
普段からクローゼットや家具に防虫剤を設置し虫を発生させない、荷物を運びこむ段ボールは新品を使う、段ボールは溜め込まずにすぐに捨てるなどで、ある程度の対策は可能です。
防虫対策としては、一人ひとりが殺虫剤(忌避剤)を使うのも効果的です。
たとえばDEET(ディート)と呼ばれる有効成分が配合されたものは、蚊やナメクジなどに効果的です。ただし汗をかいたり、擦ったり洗ったりすると取れてしまうので、必要に応じて噴射し直しましょう。また、ディートは刺激が強く、人によっては皮膚の疾患や吐き気などの症状が出ることがあります。体調に注意しながら使用しましょう。
また、スプレータイプの殺虫剤は、子どもやペットがいる場合は注意が必要です。
アレスリン、フェノトリンといったピレスロイド系殺虫剤は、哺乳類、鳥類などの温血動物には毒性が低いため、用法用量を守れば比較的安全に使用できます。ただし、ピレスロイド系の殺虫剤は魚類に影響がでる可能性があるため、熱帯魚や金魚を飼育している場合には注意しなければなりません。
春になると気温が上昇し、シロアリやムカデなどの不快害虫が活動をはじめます。また湿度も高まるこの季節は虫にとって快適な環境になります。
春の初旬に、換気扇やエアコンのダクトなど家のすき間をふさぎ、不快害虫の侵入ルートを遮断しておくことで、効果的に対策ができます。窓やドアの隙間は、市販のすき間テープなどでふさぐのが手軽です。
気温と湿度の高い夏は、ゴキブリや蚊、ナメクジなどが繁殖しやすい季節です。生ゴミを早めに処理する、食品を密封保存するなど、清潔を心がけることが重要です。定期的な換気と除湿も大切です。
気温が下がりはじめる秋は、カメムシやゴキブリ、ノミ・ダニなどが発生しやすくなります。
室内の清掃や侵入経路の封鎖に加えて、落ち葉や枯れ葉の処理、雑草刈りもおこない、虫の隠れ場所を減らすようにしましょう。
冬は寒さを避けるため、ゴキブリやダニが暖かい室内に入り込んできます。
暖房器具の裏や、絨毯の下なども定期的に確認し、掃除をしましょう。
また、多くの虫は湿度の高い環境を好みますが、なかには「ハダニ」のように乾燥を好む虫もいます。冬の乾燥した室内にも入ってくることがあるため、侵入そのものを防ぐ対策も並行しておこないましょう。
不快害虫は、わたしたちの住環境や健康にさまざまな悪影響を及ぼす、厄介な存在です。
正しい知識を持ち、適切な対策を講じることで、一定程度の害虫は駆除することができます。ただし素人では完全に駆除することは難しく、危険をともなうこともあるため、必要に応じて専門業者への相談するのがおすすめです。
![]() |
監修者:高藤 円香医師 |
2013年防衛医科大学校を卒業後、大阪大学医学部附属病院や自衛隊阪神病院で研修ののち、皮膚科専門医を取得し、自衛隊阪神病院勤務に。皮膚科医として地域の方々の一般診療をメインに、アトピー性皮膚炎や乾癬などの診療にあたっており、執筆・監修などにも力を入れている。