店頭に花粉症対策グッズが並ぶ時期には、花粉症による鼻水や鼻詰まりに悩まされる方も多くなってきます。
ただその原因が、花粉症なのか風邪なのか判断がつかず、対処に困ることもあるのではないでしょうか。
この記事では、花粉症の原因や症状、発症しやすい時期、対処法などに加え、症状が似ている風邪やインフルエンザとの比較や、その区別の仕方などもご紹介します。
花粉症は医学的には「季節性アレルギー性鼻炎」と呼ばれます。最初に花粉症の原因や発症しやすい時期について説明しましょう。
花粉症の原因は、鼻の粘膜に花粉がつくことで引き起こされる免疫反応とされています。
この免疫反応によって鼻の神経や血管が刺激されると、異物を取り除こうとする働きが起こり、くしゃみ、鼻水などの症状が現れます。
同様のアレルギー反応が目の粘膜で起これば目のかゆみや涙目などになり、まぶたや頬などの皮膚にアレルギー反応が起これば赤みや肌荒れとなることもあります。
日本で最も多い花粉症は、スギやヒノキの花粉によるものです。
花粉症のアレルギー反応と似たような症状を引き起こすものとしては、ハウスダスト、ダニの死がいやフン、カビなどを原因とするアレルギー性鼻炎もあります。
スギやヒノキの花粉のほかにも、関東地方では1月から6月まではハンノキ属(カバノキ科)の花粉が、3月から10月まではイネ科、8月から9月まではブタクサが飛散しています。
このように、花粉症が発症しやすい時期はスギとヒノキが重なる2月から4月前後ですが、1年を通して様々な花粉が飛散していることが分かります。
前述のとおり、花粉症は体内に入ってきた花粉を取り除こうとすることで生じるアレルギー反応です。
花粉が鼻から入ってくると、体内の免疫システムによって敵とみなされ、敵に対抗するための抗体(IgE抗体)が作られます。
一度抗体が作られると、次に花粉が鼻の粘膜の表面に付着した時には、花粉と体内で作られた抗体が反応し、鼻の粘膜の中にある肥満細胞(アレルギーの細胞)からヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が放出されます。
これらが血管を刺激すると、鼻粘膜が腫れて鼻詰まりになったり、鼻水やくしゃみなどの症状が引き起こされることが分かっています。
鼻の症状に対する市販薬は、アレルギー症状を抑えて鼻の粘膜の腫れを改善する薬や点鼻薬などさまざまな種類があるため、症状に合ったものを選ぶことが大切です。
なお、IgE抗体は花粉に接触するたびに作られるため、少しずつ体内に蓄積されていくという特徴があります。
IgE抗体の蓄積量が増えると、次に花粉が入ってきた時に、アレルギー反応を起こすヒスタミンなどの化学伝達物質が分泌されます。
今まで花粉症ではなかったのに急に花粉症になったという場合は、IgE抗体の蓄積量が花粉症を発症するレベルに達したということになります。
目は花粉症の症状が出やすいといわれています。
目の粘膜は直接外界に触れているために花粉が入りやすいほか、花粉に含まれるアレルギー反応を引き起こす抗体となるたんぱく質が、涙液によって溶かされやすいためです。
ほかにも、結膜にはアレルギー反応を引き起こす免疫細胞がたくさんあり、花粉が入り込むことによって症状が出やすくなります。
花粉が目に入った時の代表的な症状は、かゆみです。かゆいからといってたくさんかいてしまうと症状が強くなってしまう場合があります。
かゆみは、アレルギー反応の特徴であるため、放置せず、抗アレルギー薬や抗ヒスタミン薬などの市販薬を使用したり、医療機関を受診して適切な治療を受けることが大切です。
表1を見ると多くの方が花粉症の症状を感じる2~4月に飛散のピークを迎える花粉は、スギ、ヒノキ、ハンノキであることが分かります。
花粉症といえば、スギ花粉のイメージを持っている方も多いかと思いますが、日本ではさまざまな花粉が飛んでいます。
また、2月頃から花粉症の症状を感じる人が多いですが、花粉は1年中飛んでいるため油断は禁物です。
まずは花粉の種類と飛散時期を確認して自分がどの花粉に反応しているのかを知ることが予防の第一歩です。
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | |
スギ | ★ | ★ | ★ | |||||||||
ヒノキ | ★ | ★ | ||||||||||
イネ科 | ★ | ★ | ★ | ★ | ★ | ★ | ||||||
ハンノキ | ★ | ★ | ★ | ★ | ||||||||
シラカンバ | ★ | ★ | ★ | ★ | ||||||||
ブタクサ | ★ | ★ | ||||||||||
ヨモギ | ★ | ★ | ||||||||||
カナムグラ | ★ | ★ | ★ |
花粉症の三大症状としては「くしゃみ・鼻水・鼻詰まり」がありますが、それぞれどのような症状が出るのか詳しく見ていきましょう。
くしゃみは、鼻の粘膜についた花粉を取り除こうとするために生じる症状です。
くしゃみは周囲にも迷惑をかけやすいので、公共の場にいる時に困る人も多いのではないでしょうか。
鼻水の原因もくしゃみと同じで、鼻の粘膜についた花粉を取り除くための免疫反応です。
鼻水が出てくると鼻の空気の通り道が塞がれて、鼻詰まりのような状態となることもあります。
鼻の中には「下鼻甲介(かびこうかい)」「中鼻甲介(ちゅうびこうかい)」と呼ばれる突起があり、呼吸をする時にその間を空気が通ります。
しかし花粉症になると、これらの鼻甲介(特に下鼻甲介)が免疫反応によって腫れ、鼻から空気が通りにくくなり、鼻づまりが起こるのです。
花粉症は風邪やインフルエンザの症状と似ていますが、実際はどのような違いがあるのでしょうか。
ここでは、それぞれの症状の違いを詳しく見てみましょう。
花粉症によって引きこされるくしゃみは、「一度始まるとなかなか治まらない」といったように、連続して起こる、かつ頻繁に現れるといったことが多くみられます。
くしゃみは風邪やインフルエンザでもよく現れますが、花粉症のように連続で起こることはあまり多くありません。
花粉症で出る鼻水は、無色透明でサラサラしています。
風邪による鼻水も、初期は花粉症と同じ特徴をしていますが、徐々に黄色になり粘り気が出てきます。インフルエンザで鼻水が出るケースは少なく、出たとしても少量です。
また花粉症と同じように粘り気がなく、サラサラしています。
くしゃみや鼻水が現れる順番も、原因によって異なります。
花粉症では「くしゃみ→鼻水→鼻詰まり」の順に症状が出現し、これらが短期間で現れやすくなります。
風邪では鼻・のどの不快感から始まり、次にくしゃみや鼻水、咳などに見舞われ、さらに熱や倦怠感も現れることがあります。
インフルエンザの場合は突然の高熱、倦怠感、関節痛などの全身症状が出現してから、咳や鼻水が生じるのが典型的です。
花粉症は花粉が原因で起こるアレルギー反応であるため、花粉が飛散している間は症状が続く可能性があります。そのため、1週間以上鼻詰まりが継続することもあるのです。
一方、風邪やインフルエンザによる鼻詰まりは、早くて数日間、長くても10日前後までには治ると言われています。
花粉症による鼻詰まりや鼻水などの症状が続くと、徐々に日常生活にも影響が出てきてしまいます。
くしゃみや鼻水が出るとティッシュで鼻をかみますが、その頻度が増えると、粘膜が少しずつ傷つき、やがて出血に至ることもあります。
また、鼻詰まりを起こすと苦しいことでイライラや、仕事や勉強に集中できなくなるだけでなく、鼻づまりから熟睡できずに寝不足になり、さらにイライラや集中力の欠如といった悪影響につながるといわれています。
さらに、鼻詰まりは口呼吸の原因となります。頻繁な口呼吸で口の中が乾燥すると、のどの痛みや扁桃腺の腫れにつながるほか、免疫力の低下につながるのです。
このように、鼻詰まりや鼻水は別の問題を引き起こすきっかけとなるので、早めに対処する必要があります。
アレルギー性鼻炎はアレルギーのもととなる物質がある限り続きます。そのため、ただ季節が過ぎるのを待つだけでは辛いでしょう。
ここでは、花粉症の症状を抑えるためにできるセルフケアについて詳しく見ていきます。
花粉症の症状をやわらげるための生活習慣を取り入れてみましょう。
緑茶やハトムギ茶にはアレルギー症状をおさえる栄養素が豊富に含まれていると言われているため、食事の際は意識して取り入れてみましょう。
外出頻度が多い人は、マスクや花粉症専用のゴーグルを装着して、花粉の影響を最小限に抑えることも大切です。
帰宅した時は、服についた花粉を払って室内に持ち込まないようにした後に、うがいや手洗いを行います。室内に入り込んだ花粉が気になる場合は、こまめに掃除したり、空気清浄機を使ったりする対処がおすすめです。
また、睡眠不足や過度なストレスなどはアレルギー症状が強くでやすくなります。生活リズムを整え、ストレスを抱え込まないようにすることで花粉症状の症状が出にくくなるかもしれません。
花粉症の治療は主に薬を使った対症療法です。
さまざまな薬がありますが、ここでは花粉症で生じる鼻水や鼻詰まりを抑える第2世代抗ヒスタミン薬などの抗アレルギー薬について解説します。
花粉症の薬物治療のベースになる抗ヒスタミン薬は、アレルギー反応に関わる物質であるヒスタミンの代わりに鼻や目の粘膜にあるヒスタミン受容体に結合します。そうすることによって、ヒスタミンの働きをブロックし、くしゃみや鼻水、鼻詰まりなどの症状を抑えてくれるのです。
以前までは花粉症の薬は眠くなるものがありましたが、最近では眠気などの副作用が軽減された第2世代抗ヒスタミン薬が使われています。
一方、抗アレルギー薬は、細胞からアレルギー反応を引き起こす物質の放出を抑える働きがあります。抗アレルギー薬は効果が出るまでに2~8週間かかるという特徴があるのです。
また、内服薬よりも点鼻薬や点眼薬の方が即効性があると言われています。どちらも花粉症を治すのではなく症状を抑えるものです。
市販薬を使っても症状が重く、改善が見られない場合はほかの原因が隠れている可能性があります。そのような場合には、つらい症状を長引かせないためにも医療機関を受診しましょう。
花粉症を和らげる市販薬には、さまざまな種類があるため、どれを使ったらよいか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
花粉症の薬を選ぶ際には、症状にあったもの、使いやすさ、コストパフォーマンスを意識してみましょう。
また、起こりやすい副作用を確認することも大切です。
第2世代抗ヒスタミン薬のように眠くなりにくい薬もありますが、中には眠気や集中力の低下などの副作用が見られる場合があります。
持病がありほかの薬を飲んでいる方や、車の運転などの集中力を要する作業をする前の服用には注意が必要です。
花粉症の薬を選ぶ際には、どの薬にどのような副作用があるのかを把握するのがとても大切です。疑問や不安なことがあれば、医師や薬剤師、登録販売者などの専門家に相談しましょう。
●花粉症の市販薬の主な成分と作用・特徴
<抗ヒスタミン薬(第1世代)>
主な成分:ジフェニルピラリン塩酸塩、クロルフェニラミンマレイン酸塩
作用・特徴:すでに発症している鼻水やくしゃみを和らげる。眠くなる副作用が見られる場合がある。
<抗ヒスタミン薬(第2世代)>
主な成分:ケトチフェンフマル酸塩、メキタジン
作用・特徴:抗ヒスタミン作用と抗アレルギー作用がある。第1世代の薬に比べて、眠くなりにくい。
<抗アレルギー薬(点鼻・点眼薬)>
主な成分:クロモグリク酸ナトリウム
作用・特徴:ヒスタミンなどのアレルギー症状を引き起こす物質が放出されるのを抑える。
生活習慣を工夫することに加えて、市販薬を併用することで辛さをやわらげることができます。
市販薬の中でおすすめしたいのは、「フェキソフェナジン塩酸塩」が含まれている鼻炎薬です。
フェキソフェナジン塩酸塩とは、第2世代抗ヒスタミン薬の代表的な成分です。アレルギー症状として現れる鼻水や鼻詰まりなどに有効とされています。
フェキソフェナジン塩酸塩は副作用が少なく、使用しても眠くなりにくいのが特徴です。薬の効果が十分に発揮できるまである程度時間がかかるので、早めに飲み始めることをが大切です。
抗ヒスタミン薬にはほかにも「エピナスチン」や「エバスチン」などがありますが、薬剤によって眠気などの副作用があるため、服用の前に添付文書をよく確認しましょう。
内服薬の他にも、鼻スプレー(点鼻薬)を使用して症状をやわらげるのもよいでしょう。ただし、使用には注意が必要です。
点鼻薬の多くは「血管収縮剤」と言われる成分が入っており、鼻の中の血管を収縮させることで鼻詰まりを改善します。しかし、使用頻度が多くなると少しずつ効果が弱まり、かえって鼻詰まりが悪化してしまう危険性があります。
そのため、点鼻薬は用法・用量をしっかりと守って使用しましょう。
内服薬や点鼻薬などの市販薬を使用しても症状が緩和しないようであれば、別の原因が潜んでいる可能性もあります。その場合は迷わず医療機関を受診し、医師に相談してください。
風邪や花粉症に似たようなものとして「寒暖差アレルギー」があるのはご存じでしょうか。
寒暖差アレルギーとは、1日の寒暖差がある場合に起きやすいといわれており、厳密には「血管運動性鼻炎」といいます。
血圧や体温をコントロールしている自律神経の働きが、寒暖差によって乱れることで生じると考えられており、花粉症と同じように、鼻詰まりや鼻水、くしゃみなどの症状を引き起こすのが特徴です。
寒暖差アレルギーの場合は花粉症とは対処法が異なり、上着やひざ掛けなどで体温調節をして、気温差をなるべく小さくすることが大切です。
特に太い血管が通っている首まわりは体温が奪われやすいので、気温が低い日はマフラーやネックウォーマーなどを使用しましょう。
自律神経の働きを整えるためには、適度な運動と十分な睡眠で規則正しい生活を続けることもおすすめです
花粉症は花粉が鼻の粘膜につくことをきっかけに生じるアレルギー反応です。
風邪やインフルエンザとも似た症状が出ますが、それぞれ症状の出方や頻度が異なるため、鼻詰まりや鼻水の経過から原因を推測することができます。
花粉症による症状を抑えるためには、市販薬の使用はもちろん、生活習慣の工夫が大切です。今回ご紹介した対処法を参考にして、できることから取り入れ、実践してみましょう。
![]() |
監修者:木村 眞樹子医師 |
東京女子医科大学医学部卒業後、循環器内科、内科、睡眠科として臨床に従事している。
妊娠、出産を経て、また産業医としても働くなかで予防医学への関心が高まった。 医療機関で患者の病気と向き合うだけでなく、医療に関わる前の人たちに情報を伝えることの重要性を感じ、 Webメディアで発信も行っている。