コーヒーや紅茶などに含まれるカフェインには覚醒作用や疲労感をやわらげるはたらきがあるなどのメリットがある反面、過剰摂取するとカフェイン中毒を起こすというデメリットもあります。そのため、配合の有無や配合量を確認しながら、カフェインを摂取することも大切です。
この記事では、カフェイン中毒の症状やカフェインの摂取目安量、カフェインとの上手な付き合い方などを解説します。
カフェインは天然の植物由来の成分で、コーヒーや紅茶などに多く含まれます。
カフェインは日常生活のなかで身近な存在ですが、実は比較的強力なため、摂取しすぎに注意しながら適切な付き合い方をすることが重要です。
カフェインには、集中力の向上や眠気覚ましの効能があるといわれています。これは、カフェインが、脳のなかで神経を鎮める作用を持つアデノシンの働きを阻害する働きをすることで、得られる効能です。
疲労がたまると、脳のなかでアデノシンが生成されます。アデノシンは「アデノシン受容体」に結び付くことで鎮静作用を発揮しますが、アデノシンと似た化学構造を持つカフェインがここで、本来アデノシンが結び付かなければならないアデノシン受容体に結びつくことで、アデノシンの働きが阻害され、神経が興奮し、集中力の向上や覚醒効果があらわれます。
また、カフェインには疲労感をやわらげるはたらきがあるといわれています。これは、カフェインが交感神経を刺激することで興奮状態をつくり、疲労感を打ち消すことにより得られる効果です。
ただしこのようなカフェインの効能は一時的なものであり、覚醒作用が切れたときには、かえって眠気や疲労感が強まる傾向があることも分かっています。
カフェイン中毒とは、カフェインが多く含まれるエナジードリンクやコーヒーなどを一度に大量摂取することによって生じる、中毒症状のことです。
日本では、個人差が大きいことなどから、カフェインの具体的な摂取量の目安は示されていません。ただし海外の情報などに基づき、農林水産省や厚生労働省、食品安全委員会では、カフェインの過剰摂取に注意を呼びかけています。
出典:
農林水産省「カフェインの過剰摂取について」
厚生労働省「食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~」
食品安全委員会「食品中のカフェイン」
カフェイン中毒による症状には、精神に生じるものと身体に生じるものがあります。
ここでは、それぞれの症状について解説します。
カフェイン中毒による軽度の精神症状では、緊張や興奮やイライラ、不安、あせりや不眠などの症状があらわれます。また焦燥感や不安、口数が増える「多弁」が見られることもあります。
重症になると精神錯乱や妄想、幻聴や幻覚、パニック発作、さらにはじっとしていられなくなる「衝動性」が見られることもあります。
カフェイン中毒による軽度の身体症状では、胸の痛みやめまい、嘔吐や下痢などの症状があらわれます。また心拍数の増加や不整脈、動悸といった循環器系の異常が見られることも少なくありません。
重症になると手足の痙攣や頭痛、過呼吸をおこすこともあります。
カフェインを継続的に摂取している人が、突然摂取を中断したり減らしたりすると、さまざまな禁断症状があらわれることがあります。これが、カフェイン離脱です。
カフェイン離脱は、カフェイン中毒状態に陥っていなくてもおこることがあります。通常カフェインを摂取してから12~24時間後にあらわれますが、24~48時間後に症状のピークを迎え、およそ3週間から1カ月続くこともあります。
症状は人によって異なりますが、頭痛や吐き気、嘔吐、だるさやイライラ、集中力の低下などが見られます。カフェイン摂取をやめると基本的には7日程度でおさまることが多いです。
離脱症状があらわれている間は意識的に水分補給をしましょう。また、十分な睡眠をとることも大切です。
なおカフェインを摂取したくて仕事が手につかなくなる、激しい頭痛があるなど、離脱症状が強い場合は医師のもとで治療をおこなうようにしましょう。
カフェイン離脱を予防するためには、カフェインの摂取を急に中断したり大きく減らしたりするのではなく、数日にわたり徐々に摂取量を減らしていくようにしてください。
前述のとおり、個人差が大きいこともあり、カフェインの摂取許容量は日本でも国際的にも設定されていません。しかしながら、摂取目安量については、世界保健機関(WHO)などで発表されています。
妊婦に対して過剰摂取を控えるように求めているケースが特に多く、例えば、2016年には世界保健機関(WHO)が、妊婦がカフェインを過剰摂取した場合、出生児の低体重、流産や死産のリスクが高まる可能性があるとして、妊婦のカフェイン摂取について300mgを超えないように勧告しています。
また2008年には、英国食品基準庁(FSA)が、胎児の健康リスクを高める可能性があるとして、妊婦に対してカフェインの摂取量を1日当たり200mgに制限するよう求めています。
カフェインが含まれるのは、コーヒーや紅茶だけではありません。ここでは、カフェインが多く含まれる飲料水の例と、その濃度を紹介します。
なお、以下の飲料水以外にもカフェインを含むものはあるため、購入の際にカフェインの配合の有無や配合量を確認しましょう。
食品名 | カフェイン濃度 | 備考 |
エナジードリンクや眠気覚まし飲料(清涼飲料水) | 32~300 mg/100 mL (製品1本当たりでは、36~150 mg) |
製品によって、内容量やカフェイン濃度が異なる |
コーヒー(浸出液) | 0.06 g/100 mL (=60 mg/100 mL |
浸出方法:コーヒー粉末10 g、熱湯150 mL |
インスタントコーヒー(粉末) | 4.0 g/100 g (2 g使用した場合、1杯当たり80 mg) |
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玉露(浸出液) | 0.16 g/100 mL (=160 mg/100 mL) |
浸出方法:茶葉10 g、60℃湯60 mL、2.5分 |
せん茶(浸出液) | 0.02 g/100 mL (=20 mg/100 mL) |
浸出方法:茶葉10 g、90℃湯430 mL、1分 |
ほうじ茶(浸出液) | 0.02 g/100 mL (=20 mg/100 mL) |
浸出方法:茶葉15 g、90℃湯650 mL、0.5分 |
玄米茶(浸出液) | 0.01 g/100 mL | 浸出方法:茶葉15 g、90℃湯650 mL、0.5分 |
ウーロン茶(浸出液) | 0.02 g/100 mL (=20 mg/100 mL) |
浸出方法:茶葉15 g、90℃湯650 mL、0.5分 |
紅茶(浸出液) | 0.03 g/100 mL (=30 mg/100 mL) |
浸出方法:茶葉5 g、熱湯360 mL、1.5~4分 |
抹茶(粉末) | 3.2 g/100 g (お湯70 mLに粉末1.5 gを溶かした場合はカフェイン含有量48 mg) |
引用:農林水産省「カフェインの過剰摂取について」
致死量とは、一度に摂取した場合に死に至る量のことです。カフェインの致死量は個人差が大きいものの、一般的には5〜10gとされています。
例えば、カフェインの致死量を5g、エナジードリンク1本(100ml)とコーヒー1杯(120ml)に含まれるカフェインの量をそれぞれ約70mg、約72mgと仮定した場合、致死量を摂取するには、エナジードリンクなら70本以上、コーヒーなら約70杯飲まなければならない計算になります。
一般的に、これだけの量を一度に摂取するのはきわめて困難なので、通常の生活を送っていれば、カフェインの過剰摂取が原因で死に至るリスクは低いです。ただし、カフェイン中毒になる可能性がないとはいえないので気をつけましょう。
なお、カフェイン錠剤は1錠にエナジードリンク約1本分のカフェインが含まれることもあります。そのため錠剤でカフェインを摂取する場合、比較的簡単に致死量に達してしまうことがあるので注意が必要です。
近年では若者を中心にカフェインを含む錠剤の乱用が広まっており、厚生労働省なども過剰摂取への注意を呼びかけています。
カフェインを摂取することにより、仕事がはかどったり眠気が覚めたりすることがあるかもしれません。しかしこれは、カフェインの覚醒作用によってひきおこされる一時的な効能です。覚醒作用が切れたときには、眠気や疲労感が強まる場合もあります。
また、カフェインは過剰摂取すると依存状態になったり、中毒症状があらわれたりすることがあります。疲労を感じたときの回復方法は人それぞれですが、食事や睡眠といった生活習慣を見直したり、ビタミン剤を服用したりすることなどでも疲労回復は可能です。
カフェインには、脳のなかで神経を鎮める作用を持つアデノシンの働きを阻害する働きがあり、集中力の向上や脳の疲労感の回復などの効能が期待できるメリットがあります。他方でカフェインを過剰摂取すると、場合によっては重篤な中毒症状をおこしかねないなどのデメリットもあります。
カフェインのメリットとデメリットの両方を把握したうえで、生活のなかに上手に取り入れていくようにしましょう。
監修者:木村 眞樹子医師 |
東京女子医科大学医学部卒業後、循環器内科、内科、睡眠科として臨床に従事している。
妊娠、出産を経て、また産業医としても働くなかで予防医学への関心が高まった。医療機関で患者の病気と向き合うだけでなく、医療に関わる前の人たちに情報を伝えることの重要性を感じ、webメディアで発信も行っている。