咳は、外部から入ってきたほこりや煙、ウィルスなどの異物を取り除くための、生体防御反応です。
鼻や口から気道のなかに何らかの異物が入り込むと、気道粘膜の表面にあるセンサー(咳受容体)が異常を感じ取ります。その刺激が脳の「咳中枢」に伝わり、横隔膜や肋間膜などの呼吸をおこなう筋肉に指令が送られ、咳が出ます。この反応を「咳反射」といいます。
また咳には、気道に溜った痰(たん)を排出する役割もあります。
気道粘膜には細かい毛と、その表面を覆う粘液があり、粘膜の表面を保護しています。この粘液が、ほこりやウィルスなどの異物をからめ取ったものが痰です。
乾燥すると、気道の炎症が起こりやすくなり、咳や痰も出やすくなります。
咳は乾性咳嗽(かんせいがいそう)と、湿性咳嗽(しっせいがいそう)に分けられます。
乾性咳嗽は「コンコン」と乾いた咳が出るもので、痰(たん)はからみません。一方の湿性咳嗽は痰がからんで「ゴホゴホ」と湿った咳が出るもので、痰がからみます。
咳が続くと生活にさまざまな影響が生じることもありますが、湿性咳嗽は止めないほうがいいといわれています。
湿性咳嗽に咳止めを使うと痰が出にくくなり、症状が悪化する恐れがあるためです。湿性咳嗽については、咳止めではなく去痰薬を使いましょう。また基本的には、病院での受診をおすすめします。
特に、長引く咳には要注意です。
風邪の症状としてあらわれる咳は通常数日で治まりますから、2週間以上続くような咳は、風邪でなく、気管支喘息や咳喘息、百日咳など別の疾患が原因である可能性もあります。病院で検査し、咳の原因を特定しましょう。
では、咳の症状を抑えるにはどうすればよいのでしょうか。ここでは、咳の対策や予防法などを紹介します。
喉が乾燥すると気管支などが炎症しやすくなり、咳が出やすくなるため、喉を乾燥させないことが重要になります。
喉を乾燥させないためには、たとえば部屋の湿度を保つことが大切です。
加湿器などを使い、50~60%を目安に湿度をキープしましょう。加湿器がない場合、濡れたタオルや洗濯物を室内に干すことでも加湿できます。
ただ注意も必要です。湿度が50%以下になると乾燥して感じられますが、反対に60%を超えると部屋の隅などにカビが発生しやすくなるといわれています。適切な湿度を保つことが大切です。
マスクの着用も、喉の乾燥対策として有効です。マスクをすると口の周りの空間は吐息で湿った状態になり、その湿った空気を取り込むことで喉を潤す効果が期待できます。
特に就寝中は、空気を口から吸い込む「口呼吸」になりやすく、喉の粘膜が乾燥しがちです。
冬場や暖房の使用時など湿度が低い環境では、就寝時にもマスクをするとよいでしょう。
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喉の炎症に効果的な食事を心がけることも有効です。
喉の炎症を抑える食べ物として代表的なものに、ハチミツや大根があります。
ハチミツに含まれる「フラボノイド」と呼ばれる抗酸化成分は、炎症の原因となる活性酸素を減らすことで、炎症を抑えてくれます。
大根には抗炎症作用を持つ成分が含まれており、喉の炎症を抑える効果が期待されています。特に、大根をすりつぶしたときにできる「イソチオシアネート」は、炎症を鎮める働きをするとされています。
大根をハチミツに漬けてつくる「ハチミツ大根」なら、手軽に喉の炎症ケアができるでしょう。
そのほか、喉の炎症を抑える食品としては、レンコンやショウガなどが挙げられます。
レンコンには、「タンニン」と呼ばれる抗炎症成分が含まれていて、喉の炎症を鎮める効果が期待できます。
ショウガに含まれる「ボルネオール」や「ジンゲロール」には、抗炎症効果があると考えられています。
喉の症状を抑えるには、刺激を避けることも重要です。
たとえば酸味の強い食べ物(酢の物やレモン、梅干しなど)や、香辛料が多く含まれている食べ物(カレーや担々麵、麻婆豆腐など)は刺激が強く、喉の痛みを助長する可能性があります。
喫煙や飲酒なども刺激になります。
タバコの煙に含まれるニコチンやタールなどの有害物質は、喉の粘膜を傷つけ、炎症を悪化させるおそれがあります。
こうした有害物質は喫煙者がフィルター越しに吸い込む「主流煙」よりも、むしろフィルターを通らない「副流煙」に多く含まれるため、タバコを吸わない方も、受動喫煙に注意が必要です。
また、アルコールは体内で分解されるとき、大量の水を必要とします。そのため、アルコールを摂取すると体内の水分量が減ることで喉の乾燥を招き、炎症が悪化する可能性があります。
もちろん、カラオケなど、喉を酷使する行動は禁物です。どうしても大きな声を出さなければならない場合は、休憩を挟むなど、喉への負担を抑えることを心がけましょう。
中枢性鎮咳薬は、脳の延髄にある咳中枢に働きかけ、気管からの信号を感知しにくくすることで、咳を抑えます。
咳は体の防御反応です。
異物が気道に入り込んだり、気管や気管支、肺などに炎症があったりすると、センサーが刺激を感知し脳の咳中枢に信号を伝えることで咳がおこります(咳反射)。
この咳反射により、気道の分泌物である痰などの排出が促進されるのですが、麻薬性の中枢性鎮咳薬は気道の分泌を妨げる作用があるため、痰がからんでいるときに使用すると痰を排出しにくくなり呼吸が苦しくなるおそれがあります。
代表的な中枢性麻薬性鎮咳薬の成分としてはコデイン、ジヒドロコデインなどが挙げられます。
これらの成分は市販の咳止めによく使われますが、比較的即効性に優れ、効果が強い反面、副作用には注意が必要です。
特にコデインは、12歳未満の方の使用では呼吸抑制の副作用が出やすく、12歳未満の子どもには使えません。また眠気をおこしやすく、服用後の自動車の運転は控えるべきと注意喚起されています。
コデインは麻薬のモルヒネと化学構造が似ており、過量摂取を続けると依存に陥るリスクもあります。
中枢性非麻薬性鎮咳薬は咳中枢の働きを抑え、気道を広げることなどにより、咳や息苦しさを抑えます。
チペピジンクエン酸(アスベリン)、ノスカピンなどが該当します。
麻薬性鎮咳薬に比べて鎮咳作用が弱く、依存性の低いものが多いです。
中枢性鎮咳薬が咳中枢に働きかけ、気管や気管支、肺などからの「信号を感知しにくくする」ことによって咳を抑えるのに対し、末梢性鎮咳薬は気管や気管支、肺などに分布する「センサーの刺激を低減する」ことによって咳を抑えます。
気管支拡張薬(メチルエフェドリンなど)や去痰薬(カルボシステインなど)、漢方薬(麦門冬湯、小青竜湯など)やトローチ剤などが該当します。
医師の診察を経て、特定の人の症状を改善させる処方薬は、基本的にひとつの薬には一種類の有効成分しか入っていません。
しかし市販薬は不特定多数の人々の症状を緩和させるため、ひとつの薬に複数の有効成分が配合されていることが多いです。
市販薬でも有効成分が相互に作用し、強い作用が出てしまうリスクはあります。
特に子どもや高齢者、重い病気の人、妊婦、授乳中の女性などは注意が必要です。
こうした人は、市販の咳止め薬を使用する前に、医師に相談しましょう。
症状が軽度の場合は、自然に治癒するまでドロップなどでしのぐのも手段です。
どんな薬にも共通していえることですが、内服の咳止め薬を使用する際には、成分をしっかり確認することが重要です。
市販の咳止めは、パッケージの表だけではどんな有効成分が入っているのかわかりにくいケースもあります。
咳止めを店頭で購入するときには成分表を見て確認するか、登録販売者や薬剤師に相談することをおすすめします。
市販の咳止めには、必ず用法用量の記載があります。
用法用量を守って服用することが重要です。薬が効かないからといって自己判断で服薬量を増やしたり、服用回数も増やしたりすると、思わぬ副作用が生じることがあります。
近年医薬品の過剰摂取「オーバードーズ」が問題となっていますが、特に咳止めの過剰摂取は心身に深刻な影響を与えるケースが多いため注意が必要です。
用法用量の記載に子どもに対する投与量に関する指示がない場合は、子どもは服用できません。
服用するタイミングは用法用量に従うことが必要です。
「運転などの機械操作をする場合は服用を避けてください」といった記載があるものは、その指示に従いましょう。
コデイン類の薬は、12歳未満の子どもと授乳中の方へは服用させてはいけないことになっています。
コデイン、ジヒドロコデインなどコデイン類の薬は効果が高く、市販の咳止めにもよく使われます。強い効き目の一方で便秘、吐き気・嘔吐などの消化器症状や眠気、めまいなどの精神神経系症状、そのほか息切れなど呼吸器症状が出てしまう場合があります。
副作用リスクから、厚生労働省は2019年コデイン類の薬の子どもの服用は禁忌とする通知※を出しました。
上記の通知によれば、コデインが母乳へ移行することにより、乳児に哺乳困難、呼吸困難などの症状があらわれるモルヒネ中毒が生じたとの報告があります。
参考:コデインリン酸塩等の 12 歳未満の小児における使用の禁忌移行について |厚生労働省
参考:コデインリン酸塩等の小児等への使用制限について|厚生労働省
咳止め薬はかぜ薬や鼻炎用内服薬、アレルギー用薬との併用ができない場合が少なくありません。
これらの薬の中に含まれる有効成分の作用と咳止め薬に含まれる有効成分の作用が重複する可能性が高く、併用すると有効成分の過剰摂取になり、副作用が強く出るものがあるので注意が必要です。
市販の咳止めは、不特定多数の人の症状を改善させるために、通常複数の成分が配合されています。
本来必要のない成分まで服用することとなり、副作用のリスクも高まりますが、市販薬には手軽に入手できる利点があります。
症状が比較的軽く、咳の原因が明らかな場合や、忙しい場合に適しているでしょう。
特定の個人の症状を改善させる目的で調剤される処方薬は、基本的にひとつの薬にはひとつの有効成分しか入っていません。
高い効果が期待できる反面、入手には医師による診察が必要です。
処方薬は、症状がひどい場合や、咳の原因がわからない場合におすすめといえます。
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監修者:松澤 宗範医師 |
形成外科/再生医療/美容医療/予防医療/抗加齢医学
2014年3月近畿大学医学部医学科卒業 2014年4月 慶應義塾大学病院初期臨床研修医 2016年4月 慶應義塾大学病院形成外科入局 2016年10月 佐野厚生総合病院形成外科 2017年4月 横浜市立市民病院形成外科 2018年4月 埼玉医科総合医療センター形成外科・美容外科 2018年10月 慶應義塾大学病院形成外科助教休職 2019年2月 銀座美容外科クリニック 新宿院院長 2020年5月 青山メディカルクリニック 院長 2024年7月 肌管理クリニック