冷え性(冷え症)とは、手足の先や腰などが冷えやすくなる身体の状態のことです。
医学的な病名ではありません。頭痛や肩こり、便秘や下痢といった身体的な不調やイライラや不眠、うつや不安感といった精神的な不調をともなうケースも多く、悪化すると内臓機能や免疫機能の低下から重篤な症状をきたす場合もあります。
冷え性(冷え症)は、男性より女性に圧倒的に多く見られます。
冷え性(冷え症)にも種類があり、それぞれ症状と対処法が若干異なります。
種類 | 説明 | 対策 |
---|---|---|
四肢末端型 |
手や足の先が冷える典型的な冷え症タイプです。冷え性を自覚する女性の約9割が四肢末端型といわれ、10代~20代の女性に多く見られます。 ダイエットや運動不足による栄養不足や筋肉量の低下などで熱が十分につくれなくなると、熱を逃がさないように交感神経が過剰に反応し、血管の収縮を引き起こすことで末端の冷えが生じます。肩こりや頭痛を伴うことも多く、月経トラブルにつながるケースもあります。 |
四肢末端型では、体の温度を上げる体づくりが重要です。熱をつくり出す筋肉をつけるために運動をする、きちんと食事をとり栄養補給するといったことが必要になります。身体を冷やさないよう心がけることも大切です。露出の多い服装をなるべく避け、入浴時は湯船で温まるよう意識しましょう。 |
内蔵型 | 内臓が冷えるタイプの冷え性です。手足の冷えは伴わないケースも多く、「隠れ冷え症」とも呼ばれます。 交感神経が優位になり冷えが生じる四肢末端型とは対照的に副交感神経が優位になることで血管拡張し熱が逃げ、内臓の冷えが生じます。倦怠感や風邪、下痢などの症状があらわれやすくなります。 |
自律神経を整えることが大切です。規則正しい生活を心がけ、ストレスをため込まないようにしましょう。体のなかを冷やさないことも重要になります。冷たいものはなるべく控え、夏でも温かいものを摂取する、カイロや腹巻でお腹を温めたりするなどの対策をしましょう。 |
下半身型 |
下半身が冷える冷え症タイプです。筋肉の硬直や姿勢の悪さ、骨盤のゆがみなどにより脚やおしりの血流が悪化することで冷えが生じます。デスクワークの方や姿勢が悪い方は、下半身型の冷え性になりやすいです。 足のむくみや腰痛、こむら返りなどが起きることがあります。悪化すると、下半身は冷えているのに顔や頭部がほてる「冷えのぼせ」の症状があらわれることもあります。 |
脚やおしりの血流が滞らないようにすることが有効です。硬くなったお尻の筋肉を、ストレッチなどでほぐし血行を促進しましょう。マッサージも効果的です。デスクワークの方などは長時間同じ姿勢をとらず、定期的に立ち上がり、歩く習慣をつけるとよいでしょう。 |
全身型 | 年を通して身体全体が冷える冷え性タイプです。若者や高齢者に多く見られ、基礎代謝の低下やストレスが原因と考えられています。冷えが慢性化しているため、自覚症状がないケースが少なくありません。倦怠感や風邪、下痢などの症状があらわれやすくなります。 | 基礎代謝を高めることが有効です。生活リズムを整える、食事に気をつけるなど生活習慣に気を配りましょう。運動不足の場合、できるだけ体を動かすよう心がけることが大切です。 |
体が冷える点では「冷え性」と「冷え症」は同じです。
「冷え性」は冷えやすい、体が温まりにくいといった「体質」を指します。
検査などで異常が見られなくても冷え性と呼びます。
一方「冷え症」は「症状」を指します。
検査で自律神経などに異常が見られ治療を要する状態を、東洋医学では病気ととらえることがあります。
西洋医学では冷えを病気ととらえることはなく「冷え性」も「冷え症」もありません。
冷え性の主な症状には、以下のようなものがあります。
女性の冷えが悪化すると、子宮や卵巣の細胞に酸素や栄養が行き渡らなくなり、卵巣機能の低下を招くこともあります。卵巣機能の低下は女性ホルモンの崩れにつながり、月経痛や月経不順を招いたり、場合によっては妊娠しにくくなったりするため注意が必要です。
冷え性の原因はさまざまです。ここでは冷え性の原因について6つ紹介します。
血液は熱を運ぶ役割を果たすため、血行不良に陥ると身体に十分な熱が巡らなくなり、冷えを招きます。
また血液は細胞内に存在する「ミトコンドリア」と呼ばれる小器官に、酸素や栄養素を運ぶ役目も担います。
ミトコンドリアはエネルギーを産生する働きがあります。
血流が滞ると、ミトコンドリアが十分に機能せず、エネルギー不足になり、冷えや頭痛、疲労やイライラといった症状があらわれることがあります。
低血圧や貧血の方が冷え性になりやすいのは、このためです。
筋肉には体熱を生み出す働きがあるため、筋肉が不足すると冷えやすくなります。
また筋肉量の低下は血流の悪化を招きます。
特に、血液を心臓に送り戻すポンプの役目を果たすふくらはぎの筋肉量が低下すると全身の血行不良を招き、冷えがおきやすい状態になるのです。
自律神経は体温をコントロールしています。
ストレスや不規則な生活などにより自律神経が乱れると、体温調整がうまくいかなくなり冷えが生じやすくなります。
わたしたちの体内では、じっとしていても、呼吸や体温、内臓機能の維持などにエネルギーが消費されています。このように、生きていくために最低限必要なエネルギー(消費)のことを「基礎代謝」といいます。
基礎代謝が低下する原因は加齢や不規則な生活、栄養バランスの偏りなどさまざまです。
加齢や運動不足などによって熱をつくり出す筋肉量が少なくなると、基礎代謝が低くなり、冷えやすく温まりにくい脂肪が増え、冷えの原因になります。
体内で熱をつくり出すには、バランスのとれた食生活が重要です。
栄養が偏ると、効率よく熱をつくれなくなり、冷えを招きます。
たとえばミネラルやビタミン類が不足すると、血流が悪化しやすくなり、冷えにつながります。
またタンパク質が不足すると、熱をつくり出す筋肉の量が低下し、冷えやすくなります。
病気が背景にある場合もあります。
たとえば「ASO(閉塞性動脈硬化症)」は、足の動脈が硬くなったり細くなったりして血流が不足し発症します。
初期のころは無症状のケースもありますが、進行すると足のしびれや冷えを感じる場合があります。
また「甲状腺機能低下症」など甲状腺系の疾患でも、冷えの症状が現れることがあります。
甲状腺ホルモンは体温を維持する機能を持つため、甲状腺の機能が低下すると冷えやすくなるわけです。
病気に伴う「レイノー現象」が原因の場合もあります。
レイノー現象とは、寒さや緊張などにより血管が異常収縮し血行が悪くなることで、手足の末端に冷えや痛み、しびれなどの症状がおきる現象です。
甲状腺機能低下症や膠原病など、さまざまな病気に見られます。
冷え性の原因は男女で異なることがあります。ここでは、男女それぞれの冷え性の原因について紹介します。
冷え症の主な原因は「熱をつくれないこと」と「熱を循環できないこと」にあります。
女性は熱を生成する役割を担う筋肉が少なく、一度冷えると温まりにくい脂肪が多いため冷える傾向にあります。
月経による血流量の低下や、ホルモンバランスの乱れも冷えの要因になります。
女性ホルモンの「エストロゲン」は血管拡張作用 があり、血流に寄与しています。
更年期に入ると冷えが生じやすくなるのは、エストロゲンの分泌量低下が関係していると考えられます。
また、女性は痩せすぎが冷え性の原因になることも少なくありません。
筋肉には体熱をつくり血行を維持する働きあるため、筋肉量が少なく、痩せているほど冷えやすくなります。
とりわけ過度な食事制限によるダイエットでは筋肉量の低下に加えて栄養不足も招き、非常に冷えやすい状態になるわけです。
男性の場合、加齢にともなう筋肉量の低下や、基礎代謝の低下が原因になるケースが多いといえます。
また、女性より男性のほうが喫煙率が高いことから、 男性では喫煙による冷え性もしばしば見られます。タバコに含まれるニコチンは血行不良を招く上に、自律神経の乱れも引きおこすからです。
では、冷え性にはどのような対策が有効なのでしょうか。冷え性を改善する方法について紹介します。
締めつけの強い服装は、血行不良を招き、冷えにつながります。
きつい下着やパンツなどは控え、ゆったりとした服装を心がけましょう。
また、できるだけ薄着を避けることも大切です。
近年では空調設備が整っている施設が多いため、夏場でも冷えます。
露出の多い服やスカートはなるべく避け、クーラーの効いたオフィスではひざかけを使用するなど体を冷やさない対策をしましょう。
靴下の重ね履きも有効です。
ただし、汗が蒸れて冷えると逆効果になるため、素材選びには気を遣う必要があります。
放湿性が低い綿や、吸水性が低いナイロン素材の靴下は冷え対策には向きません。
放湿性や吸水性に優れたシルク素材やウール素材のものを選ぶとよいでしょう。
ゆとりのあるサイズの靴下を選ぶことも重要です。
不規則な生活習慣は、自律神経の乱れに直結するため冷え性の原因になります。
毎日決まった時間に寝起きする、夜更かしをしないなど日ごろから規則正しい生活を意識しましょう。
運動不足が続くと血流の悪化や筋肉量の低下、自律神経の乱れなど招き、冷えやすくなります。
適度な運動を生活に取り入れましょう。
軽い運動でもよいので、習慣づけることが大切です。
例
栄養バランスの偏りは、筋肉量の低下や血流の悪化を招きます。
特に筋肉やヘモグロビンの材料になるタンパク質が不足すると筋肉量が低下し、血液もつくられにくくなります。
またミネラルやビタミン類が不足すると、血流が悪化しやすくなり、冷えにつながります。
なかでもヘモグロビンの合成に欠かせない鉄分や、正常な赤血球をつくるために必要なビタミンB12や葉酸を積極的に摂取しましょう。
さらに、体を温める食べ物を積極的に摂取し、体の内側から温めることも大切です。体を温める食品としては、以下のようなものがあります。
体を温める食品の種類 | 食品例 |
---|---|
タンパク質を多く含む食品 | 鶏ささみ、牛もも肉、豚ロース、ローストビーフ、マグロ、カツオ、鶏卵、納豆、きな粉など |
鉄分を多く含む食品 | カタクチイワシ(煮干し)、豚レバー、鶏レバー、あさり、しじみ、豚もも肉、きはだまぐろ、かつおなど |
ビタミンB12を多く含む食品 | しじみ、あさり、牡蠣、牛レバー、豚レバー、チーズなど |
葉酸を多く含む食品 | ほうれん草、ブロッコリー、鶏レバー、牛レバー、豚レバー、卵黄など |
身体を温める食べ物 | 生姜、ナツメ、ヒハツ、ショウガ、ネギ、ゴボウ、レンコンなど |
重度の冷え性の場合は、薬の服用も検討しましょう。
ビタミンEにはビタミンE欠乏症の予防・治療効果や、手足の血液の循環を促進する効果などがあり、冷え性の改善が期待できます。
漢方薬もおすすめです。
冷え性対策には、人参湯(ニンジントウ)、桂枝茯苓丸(ケイシブリョウガン)などを体力にあわせて取り入れるとよいでしょう。
冷え性は、うつや不安などの精神的症状、便秘や頭痛などの身体的症状をともなうことがあります。
女性の場合悪化すると、卵巣機能の低下など重篤な症状を招くこともあるため、たかが冷え性と甘く見ず、適正な対処をすることが大切です。
冷え性の原因はさまざまですが、その多くは生活習慣の乱れが関係しています。
規則正しい生活や適度な運動と栄養バランスを考えた食事、良質な睡眠を確保するなど、普段の生活を改善することから見直してみましょう。
重度の冷え性の方は薬の使用のほか、医療機関に相談することも検討してみてください。
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監修者:木村 眞樹子医師 |
東京女子医科大学医学部卒業後、循環器内科、内科、睡眠科として臨床に従事している。
妊娠、出産を経て、また産業医としても働くなかで予防医学への関心が高まった。 医療機関で患者の病気と向き合うだけでなく、医療に関わる前の人たちに情報を伝えることの重要性を感じ、Webメディアで発信も行っている。